カルロス・ゴーン氏の突然の逮捕に世界中に激震が走った。有価証券報告書に役員報酬の50億円近くを過少に記載していたというのを聞いて、彼はいったい何が欲しかったのだろう、と、想像もつかない大金持ちの天井知らずの強欲さと、金銭感覚に驚いた。
金銭感覚、という意味では、スケールはまったく違うが、死んだトウチャンのそれも完全にマヒしていた。彼は大学で競輪や麻雀を覚え、バブル時代には株で1日1億円が入ったり消えたりするような生活にギャンブル依存症で完全にぶっ壊れたようだ。私が出会ったときにも、宵越しの金は持たず、というようなライフスタイルが悪い意味で炸裂しており、彼の家に泊まってたったの2度目で、朝目覚めたら姿はなく、電気やガスが止まっていた。慌てて行きつけの雀荘に電話し「電気もガスも止まっているよ!」と告げると、こともなげに「滞納や。テーブルの上に請求書あるから適当に払っといてくれ」と言い放たれたところから、私の18年間に及ぶ長い長い「払わされ人生」が華々しく幕を開けた(ここで呆れてすぐに帰宅して別れていれば、このあとの人生が大きく違っていたのは間違いない)。
週刊誌等の連載もやっていたし、収入はけして少なくはなかったのに、ありったけの持ち金を競輪に溶かす。一番酷い時には、ベストセラーになった小説の印税が何千万も入ったのに、1か月もたたないうちに使いきり、すぐに前借を申し込まれた版元の見城徹社長が「うそだろ!」と叫んだことも。手元にお金が無くなると、「おう、うちのダイナマイトナカセいるか」とヤクザの取り立てよろしくサングラス姿で会社にあらわれ、私から100万円借りる(返されたことはほぼなかったが)ということも何度もあったなあ。海外旅行が好きで世界中を旅したが、旅費はもちろん払わず、所持金もゼロに近かった。ヨーロッパとアフリカに1ヶ月の旅程で出かけた時には、冗談ではなく文字通り1円も持ってなかった。
ちなみに亡くなったときの彼の銀行口座の残高は103円。篠田桃紅さんの『一〇三歳になってわかったこと』というベストセラーじゃないが、「一〇三円になってわかったこと」という心境になった。お金にだらしなさすぎて、一緒にいた18年間、私の経済状況もボロボロだった。私は、トウチャンを喪ったとき、心と同様、経済の立て直しにも早急に取り掛かる必要に迫られたのだ。唯一白川イズムを受け継げてよかったのは「せこくない」支払いスタイル。払わされなれているから金払いだけはよく育った。食道楽だった彼の影響でエンゲル係数は今もマックス高め安定。でも洋服代にはまったくお金をかけないし、ブランドや宝石などにも興味がない。贅沢は旅をするときの乗り物とホテル、あとは物欲もないし質素なものだ。なににどのくらいお金をかけるか、というのは人それぞれの価値観で、人生観にもつながる。そこが一致するかしないかは相性をかたる上で欠かせないだろう。