著者:古賀茂明(こが・しげあき)/1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。元報道ステーションコメンテーター。最新刊『日本中枢の狂謀』(講談社)、『国家の共謀』(角川新書)。「シナプス 古賀茂明サロン」主催
著者:古賀茂明(こが・しげあき)/1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。元報道ステーションコメンテーター。最新刊『日本中枢の狂謀』(講談社)、『国家の共謀』(角川新書)。「シナプス 古賀茂明サロン」主催
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衆院本会議で安倍首相と山下法相(c)朝日新聞社
衆院本会議で安倍首相と山下法相(c)朝日新聞社

「人手不足だ!」という経済界の悲鳴に応えるべく、自民党政権は、これまでも日本の労働者の賃金を国際的に見て低い水準に抑える政策を一貫して採ってきた。

【衆院本会議で安倍首相と山下法相】

 少子高齢化による生産年齢人口(15歳~64歳)の減少への対応ということもあるが、基本的には、競争力を失った日本の産業の「構造改革なき延命策」として、この政策が採られたというのが本質だ。

 どういうことか説明しよう。

 先進国になると、労働条件を向上させる方向に舵を切らなければならなくなる。その根底には、生産年齢人口の減少で労働者の立場が強くなるということもあるし、経済的に豊かになって、社会全体に余裕が生まれ、より人間的な生活を保障すべきだという国民の声が高まるのに対して、政治家や企業経営者が対応せざるを得ないということもある。

 賃金を上げ、休暇を増やし、労働時間も短くすることにより、全体としての労働条件は向上してくる。しかし、それは、企業にとっては、負担増である。その負担を生産性の向上によって吸収できれば良いのだが、そうした活力を失った産業・企業では、徐々に対応力を失い、労働条件向上の流れを何とか止めたいという欲求が高まる。大企業はもちろんだが、むしろ、企業体力の弱い中小企業では、より早い段階からこうした声が出てくる。

 こうした国内の構造的要因に加え、80年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた日本企業が、90年代以降、急速に国際競争で優位性を失うという状況が生じた。本来は、ここで、日本の大企業は、労働条件を引き上げても競争できるビジネスモデルへの転換を図らなければならなかったのだが、そうはしなかった。イギリス、ドイツ、オランダなどでは、その転換に20年以上を費やしたが、日本は最初からそれを諦めた。そして、労働コスト引き下げで競争力を維持するという、より安易な方向に逃げようとしたのである。

 95年に日本経営者団体連盟(日経連。主に労働問題を扱う大企業経営者団体の集まり。後に経団連に統合された)が出した、有名な「新時代の『日本的経営』」というレポートはこの動きを象徴するものだ。このレポートでは、正社員(正規雇用)中心の雇用から、残業代ゼロ法案でも問題とされた高度専門職的な雇用とパート・派遣などの切り捨て用雇用を併用した新たな雇用戦略を取るべきだと提唱していた。今から20年以上前に大企業の経営者たちが描いた設計図通りに日本の雇用が動いてきたということになる。

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