■立ち入り観察とは?

 私も今尾さんたちが箸墓古墳などに立ち入って観察する様子を、墳丘の外側から取材したことがあります。学会のメンバーたちは、宮内庁の担当者に先導されながら墳丘の裾部をゆっくりと歩いて観察するだけです。ルートを外れ、墳丘の頂上にのぼることも許されません。ただ歩いているだけのように見えるのですが、研究者にとっては墳丘の裾部を歩くだけで新たな情報を得ることができるそうです。連載では、今尾さんが墳丘内に立ち入ったときの率直な感想や貴重な情報も記されています。

■情報公開請求でわかった箸墓古墳墳丘の様子

 また、私たちメディアが情報公開請求という手続きを行った結果、宮内庁が過去に行っていた発掘調査の未発表資料が公開されることもありました。私が2012年夏に箸墓古墳についてのデータを情報公開請求したところ、宮内庁が1968年に箸墓古墳の後円部と前方部の頂上部を調査していたことを示す写真や書類、実測図などが開示されました。

 多くの研究者は、そんな調査があったことさえも知りませんでした。一番驚いたのは、後円部の最上段が石だらけだった様子が写真に収められていたことでした。私たちは今尾さんを含めて複数の研究者に集まってもらい、この資料について検討していただき、紙面化しました。宮内庁がもっと早く公開してくれていたら、前方後円墳の誕生をめぐる研究はもっと進んでいたのに、と悔まれます。

■共同発掘調査をきっかけに

 2016年4月から2018年3月まで合計79回にわたって朝日新聞奈良版に連載された「天皇陵古墳を歩く」では、今尾さんが様々な資料から得た古墳ひとつひとつについての膨大な知識に加え、奈良県内のすべての天皇陵古墳を実際に訪れ、現場で見て、感じたことも紹介し、最前線の難しい研究の中身をかみ砕いて、読者の皆さんに伝えてきました。その連載に、列島第1位の超大型前方後円墳として知られる大山(だいせん)古墳(現、仁徳天皇陵)を含む大阪府の百舌鳥(もず)古墳群や古市古墳群を追加して1冊の本にまとめたのが『天皇陵古墳を歩く』(朝日選書)です。

 ちょうど2018年10月下旬から、宮内庁と堺市による大山古墳の発掘調査が始まりました。宮内庁が地元自治体と共同で発掘調査するのは初めての試みです。これを契機に天皇陵古墳をめぐる議論が深まって欲しいと願っています。(朝日新聞大阪本社生活文化部次長・塚本和人)