政府は今臨時国会で「原子力損害賠償法改正案」を提出した。
原子力損害賠償法は、一言で言うと、原子力発電所などで事故が起きた時に、何十兆円、いや百兆円に及ぶかもしれない損害について、誰がどれだけの責任を負うか、そして、被害者救済のための資金をどう確保するかを決める法律だ。
私たちは福島第一原発事故の際に、東京電力が損害賠償する準備をほとんどしていないことに驚いた。また、東電の株主や債権者であるメガバンクが全く責任をとらない仕組みになっていることに憤りも感じた。
結局は、政府がいろいろな形で資金援助したり、電力料金として国民が負担することにより、かろうじて被害者救済が進められている。そうした未曽有の過酷かつ理不尽な経験をさせられた後に、原子力事故の損害賠償責任の在り方を見直すのであるから、本来は、国を挙げた大議論が展開されてもおかしくない。もちろん、電力会社による損害賠償への備えを飛躍的に強化するという方向での見直しをすることになる、と誰もが期待するであろう。
実は、電力会社による損害賠償への備えについては、この法律が1961年に成立して以来、10年ごとに計5回見直しが行われ、電力会社が保険などによって損害賠償に備える義務は毎回必ず強化されてきた(当初の50億円から徐々に引き上げられ、09年には1200億円とされた)。今回は、福島の事故を踏まえた改正だから、上限のない保険契約か10兆円台への大幅引き上げが行われるのではないかと思っていた。
ところが、今回だけは、電力会社の責任は強化されないことになった。しかも、過去何年も議論を行った審議会の報告書を見る限り、この金額の引き上げについてまともに議論を行った形跡がない。
この論点一つを取っただけで、いかに今回の改正案がおかしなものかがわかるだろう。
しかし、国民やマスコミの反応は静かで、今のままでは、ほとんど議論もないまま、衆・参各々数時間の議論だけで法案が通過してしまいそうな情勢だ。