2018年の世界経済は混迷を深めている。米中貿易摩擦が激しくなり、超大国がぶつかり合う。中東最大の産油国でAIなどの最先端企業に多額の出資をしているサウジアラビア政府の記者殺害疑惑も浮上した。またAI技術の発展の先にどんな企業社会が待ち受けているのか。確かな解答を見つけにくい時代に会社のかじ取りを任された経営者は何を手掛かりに経営判断すべきなのだろうか。
そのヒントを探して、10月16日に開かれた日本アスペン研究所創立20周年記念シンポジウムに参加した。日本アスペン研究所は1998年に設立され、その後16年にわたって小林陽太郎氏(元経済同友会代表幹事、2015年死去)が理事長を務めた。企業経営者や経営幹部、官僚などリーダー層を対象にしたセミナーを開催してきた。
セミナーの内容はユニークだ。「世界と日本」「自然・生命」「認識」「美と信」「ヒューマニティ」「デモクラシー」といったテーマを西洋、東洋の古典を読み込み、学んでいく。「世界と日本」ならテキストは米国の外交官であり歴史家のジョージ・ケナンの『二十世紀を生きて』や作家坂口安吾の『日本論』などを読む。「認識」ではデカルトやプラトンの著作を読む。実際の企業経営にすぐには役立たないのではないかと思える内容である。
テキストの多くは難解で、一度読んだだけでは内容が分からない。事前にテキストを読み、セミナーでは自分が興味を持った部分や疑問に思った部分について自分の考えを披露する。参加者は他の参加者の考えを聞きながら、自分の考えとの共通点や違いを確認する。
過去の取材でセミナー参加者に感想を聞いた。共通するのは、(1)自分は何事もよく分かっていると思っていたが、そうではなかったと謙虚になれた (2)いろんな読み方、考え方があることが分かった、というものだった。参加者たちはセミナーで、自分に対する謙虚さと多様な考え方の存在を受け入れる寛容さの重要性に気がつく。