こんなしびれる前田を発見したのは、映画「もらとりあむタマ子」(13年)だった。

 演じたヒロイン・タマ子は、大学卒業後、就職せずに甲府の実家に戻る。ジャージ姿で食べて寝て、マンガを読んでまた寝ている。腹ばいから少し起き上がったと思うと、横向きに。ずっと布団の上で、だるそうにマンガを読む。やっと起きたら、ゲーム。

 離婚して一人暮らしの父が料理をする。タマ子は、顔をお皿に近づけて食べる。テレビに向かって「ダメだな、日本は」と独りごちる。「日本がダメなんじゃない、おまえがダメなんだよ」。珍しく声を荒げる父。笑える名シーン。

 父のお見合い相手(富田靖子!)に会い、「(父が)いちばんダメなのは、私に出てけって言えないとこですよ」と語るタマ子。強がりの中に弱さが見えて、愛おしくなる。

 「モヒカン故郷に帰る」(16年)はキュートな妊婦役。恋人が真夜中に買ってきたコンビニのパスタを、むっくり起き上がってズルズルと食べる。「よく食べるなー」と感心される。2人で恋人の故郷へ。料理を義母に教わり、「おかあさん、超やさしーい」と言い、寝っ転がって「まじ、妊婦、キッツー」と言う。取り繕わない、心のきれいな子。

 以上、マイフェイバリット前田敦子コレクション。

 事務所の発表によれば、前田はすでに安定期に入っているそうだ。スポーツ紙などは来春出産と推測していたが、復帰は夏だろうか秋だろうか。

 いずれにしろそのときは、「地方」「ジャージ」「腹ばい」で。切にお願いする次第だ。 (矢部万紀子

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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