今年5月、同店は無事トリップアドバイザーに登録された。1万8149位からのスタートだったが、友人知人に高評価のレビューを依頼し、数週間で1万位圏内に到達。順調にランクは上がっていき、8月末には156位、11月初旬にはついに1位を獲得した。一度も料理を提供せず、100件ほどの偽のレビューだけでロンドンのトップレストランに上り詰めた。

 ランクが上がるにつれ、バトラー氏の元には世界中から予約の問い合わせや広告会社の売り込み、メディアの取材依頼が殺到。自宅周辺に店を探す人まで現れ始めた。予約が取れないことへのクレームも増えたため、やむなく実在しないレストランを一夜限定で「開店」することにした。

 雰囲気を出すため客の半数に料理を絶賛するサクラを仕込み、安価なレトルト食品や冷凍商品で客をもてなした。こうして同店に初めてサクラ以外の「本物の客」のレビューが書き込まれたが、評判は上々だったそうだ。人間の“舌”のいい加減さがよくわかるエピソードだ。

 便利だからつい利用してしまう口コミ情報サイトだが、このような落とし穴があることも忘れてはならない。あくまで参考程度に利用するのが良さそうだ。

週刊朝日  2018年1月5-12日合併号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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