映画の全編から漂うのは「愛」の香りだ。メンバーがメンバーに対して見せる愛、スタッフへの愛、BTSの分身とも言えるARMYたちに与える愛、反対にARMYたちから与えられる愛、そして「自分が自分に贈る愛」。さまざまな愛が、映画の端々に散らばっている。

「愛」は、BTSにとって、とても大切な言葉だ。特に今回のツアーは、「本当の愛は自分を愛することから始まる」という信念のもとに始まったアルバムシリーズ「LOVE YOURSELF」を引っさげて行われたものであることから、映画の前提に「愛」があるのは当たり前のこととも言える。

 映画を観て、「BTSの愛」について、再確認したことがある。それは、彼らの愛は、「人を救う」ということだ。

 劇中、長く過酷なツアー日程のせいもあり、彼らは度々思いもよらないハプニングやアクシデントに遭遇する。例えば、パリ公演。体調を崩したせいで思うように声が出ず、苦しむV。そんな彼を支えたのは、同い年のJIMINだった。この頃、JIMINはJIMINで大きな問題を抱えていた。にもかかわらず、初のフランスライブでベストなパフォーマンスを見せられないふがいなさに下を向くVの肩を抱き、笑い、ともに歌い、Vを暗闇から救い出す。

 ロンドン公演のリハーサルでけがをしたJUNG KOOKもまた、それぞれのメンバーがそれぞれの形で見せる愛に救われ、笑顔を取り戻していく。特に公演後のJINとJUNG KOOKのやりとりには、JINらしさがよく表れている。そんな彼らの姿は、自分たちの予想をはるかに超える大きなうねりを、手を取り合って乗り越える同志愛であふれている。

 映画にはARMYと交わし合う愛も、たっぷりと描かれている。7人は、常々「ARMYの愛のおかげで自分たちはここにいる」と言う。それはSNSを通じたARMYの発信力が、今の世界的人気の要因の一つとなっているということもあるだろう。だが何より、ARMYの声援により、つらい時にも自分たちが立ち上がることができるということを知っているからだ。ライブシーンにはどれも、割れんばかりのARMYの歓声が響き渡っている。時に声がかすれて歌えないVに向けて、時に椅子に座って歌うJUNG KOOKに向けて、「大丈夫だよ」「私たちがついているよ」と精いっぱいの声で叫ぶ。7人もARMYに想いを届けるべく、全力投球で歌って踊る。BTSとARMYの想いが交差するライブシーンは、愛の交歓にも見える。

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