米国防長官マティス海兵隊大将(退役)や安全保障担当補佐官のマクマスター陸軍中将らが「外交的解決」を常に強調するのは現実的な知将らしい姿勢だ。

●警報出るのは落下の後

 日本はミサイル防衛にすでに約1兆8千億円を費やした。海上自衛隊の「こんごう」型イージス護衛艦4隻に加え、より新しい「あたご」型2隻も近くイージス搭載になる。イージス艦が搭載している「SM3ブロック1A」ミサイルは射程約1千キロ、最大射高約500キロと推定される。北朝鮮から日本に向かうミサイルを軌道の頂点付近(高度200キロ以下)で速度が落ちたところを狙う。

「SM3ブロック1A」は1発16億円もするから、イージス艦は各8発しか搭載していない。不発や故障もあるから1目標に2発ずつ発射するのが一般的で、4目標にしか対処できない。この後継として日米で共同開発した「SM3ブロック2A」は射程2千キロ、射高1千キロに達する。グアムやハワイを狙う中距離ミサイルに対処するのが当初の目的で、「集団的自衛」の最たるものだ。1発30億円はしそうだ。イージス艦のミサイル換装や、日本列島をカバーするための陸上配備の「イージス・アショア」(約800億円)は2セット必要で、ミサイル防衛経費はさらに膨張しそうだ。

 イージスが撃ち漏らした弾道ミサイルは航空自衛隊の「パトリオットPAC3」(発射機34輌に各4発)で処理することになっているが、射程は20キロ以下でそれぞれ1地点しか守れない。射程を22キロにするものを発注しているが、日本のごく一部しか守れないのは変わらない。

 北朝鮮がグアム周辺にミサイルを発射するのに備え、PAC3が島根、広島、愛媛、高知の4県に展開したが、最大射高が15キロだから、日本上空で高度約400キロに達する「火星12」に届かない。「故障して日本に落下する場合に備える」と説明するが、故障して不規則な飛行をするミサイルの未来位置を計算するのは困難で、政府が「万全の態勢を整えている」と言うのは気休めか、ミサイル防衛の宣伝にすぎない。

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