政次死す! 「おんな城主 直虎」岡本プロデューサーが語る“衝撃の最期”の真相

AERA
 NHKの大河ドラマ「おんな城主 直虎」第33回「嫌われ政次の一生」で、高橋一生演じる小野政次がついに最期を迎えた。しかも、処刑場で磔(はりつけ)にされた政次を、長槍で刺しとどめを刺すのは、ほかならぬ井伊直虎(柴咲コウ)。裏切り者としての「小野の本懐」をまっとうさせるため、誰よりも深く政次を理解する直虎自らの決断だった。岡本幸江プロデューサーに、政次最期のシーンに込めた思いを聞いた。

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 処刑のシーンは、政次と直虎が、「裏切った家老」「裏切られた城主」という形をお互いに演じあう。「日の本一のひきょう者と未来永劫語り継いでやる」などと、互いを罵り合あっているように見えて、実は裏返しで「誓いの言葉」のようになっている、何とも言えないラブシーンになっています。何かにこだわって撮るというよりは、2人の真剣勝負を、ただただ正面からとらえるという、そういう演出であり見せ方だったと思います。

 脚本の森下佳子さんも「こうしよう」と考えて、理屈の上で、あの(処刑の)シーンを決めたわけではないと思います。森下さんの中で2人の関係を紡いで、積み重ねていったらこうなってしまった。政次最期のシーンについて、森下さんと事前にそこまで細かくは打ち合わせをしていなかったんですが、私も森下さんも「処刑場に行って、直虎がお経をあげる」とかかな、と思っていました。でも、書いているうちにああいう形になったそうで。ある日の夜に初稿が私のところに送られてきて、読んだ後、大泣きしてしまい……。その後、急激に眠気が襲ってきて、そのまま寝てしまいました。これは受け止めきれない、と。

 正直、日曜午後8時の大河ドラマで「ここまでやっていいのか」という、バランスを取る気持ちがゼロではありませんでした。主人公にこんな業を背負わせるのか、と。でも、いつもは淡々と仕事をこなしているスタッフが、台本を読んだ後わざわざ私のところに「これはすごい」と何人も感想を言いに来たんです。その反応を見て、「ならば、この形でまっとうしてもらおうか」と思いました。

 実は、政次は史実では結婚していて、子どもと共に処刑されているんです。ただ、制作者の身勝手な思いですが、政次には独り身で、直虎を支えていてほしかった。そんな勝手な思いもあり、最後まで独身という設定にしました。

 私もつくりながらぐったりしてしまったんですが、音楽担当の菅野ようこさんも普段はパワー全開な方なのに、第33回の脚本を読んで10日ほど熱で寝込んでしまって……。森下さんも書き終えたときは虚脱状態でしたし、キャストもみるみる集中していきました。

(直虎役の)柴咲さんからは「台本を読んでこんなに衝撃を受けたことはない」と言われました。財前直見さんもちらっと「ものすごい愛の形よね」とおっしゃっていましたね。(高橋)一生さんからは本を読んだ感想自体は聞いていませんが、「『磔(はりつけ)にされて、槍で突かれ、血を吐いて死ぬ』なんてシーン、これまで大河ドラマにありましたっけ?」という話をしました。

 制作スタッフやキャスト、このドラマに関わる方が、「ちゃんと政次を見送らないと」という気持ちになりました。直虎は、1人では強さを手に入れられなかった。政次と呼吸を合わせて、表と裏、右と左で二人三脚で呼吸を合わせたからこそ、井伊直虎になりえたところがあります。だからこそ、政次の志を生かそうとすると、直虎はああいう見送り方をするしかなかった。究極の愛の形だと思います。

 政次は本心を言わず、隠していかないといけないキャラクターですが、(高橋)一生さんの得意とするところかな、と思いました。「ペテロの葬列」(TBSテレビ)、「民王」(テレビ朝日)など、声高に主張はしないけれど、何かを考えてぐっと抑え込む演技が似合う方。秘められたものを表現できる方としても一生さんがぴったりかな、と思っていました。

 政次は本音を言わず、思いと行動が裏腹な複雑な人物。どこまで視聴者に伝わるかな、と思っていましたが、見た方が見事に読み取ってくれ、読解力の高さにびっくりしました。もちろん、一生さんの力があってこそですが、見てくれた方とのキャッチボールが、政次というキャラクターを深くしてくれた。幸せな形だったと思います。

 第38回の終わりから、菅田将暉さん演じる、直政(虎松)が登場します。つぶれたお家の子が、徳川でどんどん出世していく。その過程で、井伊家と同じような困難を経験しますが、井伊家の知恵が生かされたり……。直虎も、もう一度、理想に向かってむっくりと起き上がる。オープニングのタイトル映像にもありますが、馬に蹴散らかされ、焼かれていったん死に絶えたものが、また春が来て新芽が出てくる。復活の力強さが、見ていただく方への応援メッセージになればいいなと思います。(編集部・市岡ひかり)

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