その後、彼の性格は一変しました。本来のお調子者、ムードメーカーの性格を取り戻し、中学1年生で初めての定期テストの際には、満面の笑みで点数を自慢してくるようになりました。中学入学以降は、心身ともに急激に成長し、希望の進路を自分から見つけ、努力できるようになりました。高校受験という壁のほうが彼には合っていたようで、順調に成長しながら、自己肯定感を取り戻していきました。

 これは、超難関校に合格したサクセスストーリーではありません。ただ、自己肯定感を破壊し、ネガティブ思考の塊にさせてしまう受験もあるということをお伝えしたかったのです。劣等感をバイタリティに変えられる子どもは、実際にはほんのひと握りです。中学受験の舞台から思い切って降り、高校受験で自己肯定感を取り戻した子の例をたくさん見てきた私だからこそ、言えることだと思っています。

「競争適性」のある子は中学受験に向いている

 中学受験のし烈な競争の中で、子どもが備えるべき大事な要素が「競争適性」です。

 東京のある大手塾では、子どもの成績が、クラスのみならず座席順にまで影響を及ぼすシステムを導入しています。テストの結果が良ければ前のほうに座る、成績が振るわなければ後ろへ。子どもは全員が序列化され、競争が常に子どもたちの日常に影を落とします。このシステムがもし、〝普通の子〟が中心の高校受験に導入されたら……? 精神的なプレッシャーで病んでしまう子が続出するでしょう。大人ですら耐えがたいプレッシャーが、10 歳、11 歳の子どもにのしかかっているのが中学受験の現状なのです。

 ところが、競争適性のある子どもたちは、これをまるでゲームのように楽しむことができます。偏差値やクラスが下がっても心が折れることなく、ライバルに追いつこうと闘志を燃やし、勉強への意欲へとつなげます。こういった子にとって、し烈な受験はむしろ「成長のきっかけ」となるでしょう。偏差値やクラスが上がると、ライバルをしのぐ喜びで自己肯定感が満たされます。スポーツで、敗北をバネにがんばれるタイプの子も同じで、中学受験向きの子どもと言えるでしょう。反対に、いわゆる〝普通の子〟が現代の中学受験に参加するには、強いプレッシャーに耐えられる競争適性が必要なのです。

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