矢萩:音読をしっかりするのは大事で、最近ラジオを聞いても意味がわからない、という子どもたちが増えているそうです。「聞く」というのは音声だけなので、ひらがなで聞いているのと同じなんですね。頭の中でそれをブロック分けして、漢字に変換して、意味に変換している。最近はテレビを見ていても、出演者がしゃべっている言葉がテロップで出ちゃうじゃないですか。YouTubeもそうですが。それに慣れてしまうと、聞いただけで漢字に直して、意味に変換して、という作業が苦手になってしまうんです。子どもたちの「読む、聞く」をもっと鍛えていかないと、将来結構歪みが出てしまうんではないかな。

安浪:つまり大切なのは、「読み書きそろばん」ですよね。計算については「低学年セミナー」などでおすすめのドリルを紹介することもありますが、それは参加者の皆さんが具体的なものを期待されてるので、子どものレベルを超越した方向に暴走しないための牽制と、満足度を上げるために紹介しています(笑)。どんなドリルでも、子どもがやって楽しいと思うならいいけれど、嫌がったら取り下げる。これに尽きます。嫌がっていてもそれをやることで鍛えられる、と思っている親御さんもいますが、余計に嫌いになるだけです。

■単なる先取り学習はリスクを伴う

矢萩:あと、この質問者さんは「周りに塾や公文、タブレット学習などをされている方が多い」とおっしゃっているじゃないですか。低学年で陥りがちなのはこれです。つい周りと比べて焦ってしまう。

安浪:確かに、低学年ほど結果が出やすいのは事実です。公文をやっている子やタブレット学習をやっている子のほうがテストの結果は出ます。でもそれは早めにスタートしただけで、5、6年生になると追いつかれる。例えると、3歳で九九を言える子は「すごい!」って言われるけれど、誰でも九九は言えるようになるじゃないですか。それと同じ。周りでやっている、という事実に親が焦ってしまうのはわかるのですが、それはあまり意味がありません。早めにスタートして最後まで走り抜けられるのは、最難関校に合格するごく一握りのトップ層のみです。むしろ、やらされすぎて潰れてしまうパターンのほうが多いかもしれません。

矢萩:成長に合わせて学んでいくことが小学生のうちは特に大事で、1年後の適切な時期にやればスッと理解できたものを、早くやってしまったために挫折してしまうということもあるんです。学習の抽象度が高くなる小5、小6は特にそうです。すごく成長が早い子ならいいですが、単なる先取り学習はリスクを伴います。周りと比べるのではなく、目の前の子どもをよく見て、子どもが何に興味を持っているのか、何がわかって、何がわからないと言っているのか、それに合わせた学習をしていく。それが理想ですね。

(構成/教育エディター・江口祐子)

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安浪京子 矢萩邦彦
安浪京子 矢萩邦彦

安浪京子(やすなみ・きょうこ)/「きょうこ先生」として親しまれている中学受験専門カウンセラー、算数教育家。佐藤亮子さんとの共著『親がやるべき受験サポート』(朝日新聞出版)が好評。最新刊は『中学受験にチャレンジするきみへ 勉強とメンタルW必勝法』(大和書房)。

矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

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