■絵本に勉強を求めていることに、衝撃を覚えた
安浪:絵本の読み聞かせに関して、以前、こんなご相談を受けたんです。「今まで頑張ってたくさん読み聞かせをしてきましたが、うちの子は全然話を聞いていないことに気づいて衝撃を受けました。これからは絵本の要約とかを毎回させたほうがいいのでしょうか」って。絵本に勉強を求めていると知って、結構衝撃を覚えました。
矢萩:それこそ、読み聞かせの中で対話ができていないんですよ。例えば読んでいる時に子どもの顔を見て、ゆっくり読んだり、スピードをつけたりなど読み方を変えたり、「これってどう思った?」と聞いてみたりといった対話的な読み聞かせもできると思うんです。一方的に自分のペースで読んで、「今までの話を要約して」みたいなことって、それはもう無茶な国語教育と同じです。
安浪:絵本って親子でお話を追っていく楽しさもあるけれど、子どもが挿絵を見てボーッといろいろ想像を膨らませたり、お母さんやお父さんの温かさに触れたり、文字情報を耳から音として入れたりなどいろいろな価値があるはずなんです。先ほど、デジタルとアナログの話がありましたが、今の親御さんってなんでもデジタル的に捉える傾向がありますよね。
矢萩:僕も息子に絵本の読み聞かせをするときがありますが、途中で止めて「この後どうなると思う?」と言うことはよくやるんです。はい、合ってました、残念、不正解です、という話ではなくて、たしかにそういう可能性もあるよね、そっちの世界線だったらどういうエンディングになったんだろうね、と対話していくのが楽しいのです。一つの絵本の中で、いろいろな可能性を一緒に広げていこうよ、という読み方はすごく面白いです。
(構成/教育エディター・江口祐子)
※矢萩邦彦さんの新著『自分で考える力を鍛える 正解のない教室』(朝日新聞出版)では、中高生や大学生を相手におこなっているリベラルアーツの授業をベースにした対話的な学びや、古今東西の偉人たちのエピソードも紹介しています。
矢萩 邦彦