■勉強の先取りで、むしろ学力が低下
安浪:特に今は中学受験の低学年化、勉強の先取り化が進んでいますが、それがゆえにむしろ学力が全体的に低下しているという事実を親御さんたちにはしっかり考えてほしいです。おそらく「早くやっておけば有利なはず」とそろばんを弾いてのことだと思いますが、中学受験の勉強に小さいうちから取りかかったからといって、学力が他の子より伸びる保証はありません。基盤がないうちに問題集ばかりやらされて勉強がイヤになったり、塾に行くこと自体が惰性になったりするご家庭は、決して少なくありません。あと、低学年のうちはやはり家庭での対話に集中する、とにかくそれに尽きるような気がします。そういうと皆さん、「うちはちゃんと会話しています」っておっしゃるんですが、よくよく会話を聞いてみると、言葉のキャッチボールをしていないことが多いんですよね。
矢萩:厳密いうと会話と対話って僕は違うものだと考えていて、会話は単なるおしゃべりでよいのですが、対話は相手の話を聞いて自分のマインドや行動が変わるかもしれない、という前提が必要です。ですから、対話は片方が言いたいことを言っているだけではダメなんです。
安浪:まして中学受験塾に行き始めると「あれやったの?」「これやったの?」「いつやるの?」など一方通行になりやすいです。これは対話とは言わないんですよね。単なる事実確認です。
矢萩:今、ChatGPTが話題ですが、これからよりデジタル化が進んで世の中も一層変わっていくと思うんです。そんな未来を見たときに、今の「事実確認」ってすごくデジタルなことなんですよね。そうではない、アナログな体験っていうものがどんどん学びの中でも減っていくと考えられます。ですから質問者さんのお子さんのような低学年のうちは、なるべく自然体験のようなアナログな体験や対話を増やしていくことが大事だと思うんです。紙の本を読むとか、お話を聞くなどもいいですね。デジタルな社会がやってくるのだから、デジタルじゃない体験量を意識して増やさないと、多分バランスが取れなくなってくるんじゃないかと思います。そういう観点を持っておくと、社会に出てからの生きる力にきっと繋がるだろうなとは思います。
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