これがきっかけになり、家系ラーメンへの執着がなくなった。新たなラーメンを作ろうという思いが湧き上がり、蓮沼さんの食材探しが始まった。

 川崎の北部市場で、見たことのない鯛節を見つけた。かじると独特な旨味がある、連子鯛という鯛だった。「これでスープを取ってみよう」と1ケース買い込み、試作が始まる。

 連子鯛のスープに豚骨スープをブレンドした味は絶妙で、美味しかった。戦友の竹田さんも、これは旨いと背中を押してくれた。

 こうして06年1月、「どっかん」の看板を変えて、「鯛だしとんこつ 我武者羅」として再スタートを切った。竹田さんも祝い花を出してくれた。戦友の応援がうれしかった。

2017年に限定復活した「幻の鯛だしとんこつプレミアム」(筆者撮影)
2017年に限定復活した「幻の鯛だしとんこつプレミアム」(筆者撮影)

 他にない新たな味が話題を呼び、リピーターも生まれるようになる。1日の売り上げが50杯を超え始めた頃、フジテレビの「スーパーニュース」で取り上げられ、一躍人気店の仲間入り。その後、テレビの企画で「東池袋大勝軒」の故・山岸一雄さんからも太鼓判をもらい、人気は不動のものになった。

 このとき、蓮沼さんに一つの思いが生まれる。

「一番美味しいと思うラーメンは地元の新潟で食べたラーメンです。故郷の味を都内に広げて、地元に恩返しがしたかった。生姜醤油ラーメンにも思い入れはありましたが、まずは新潟のラーメンの中で一番インパクトがある濃厚味噌ラーメンで勝負しようと決めました」(蓮沼さん)

 濃厚味噌ラーメンといえば、地元の「東横」だと思った蓮沼さんは何度も現地に通い、研究を重ねた。「東横」のラーメンを軸に、リスペクトを込めて、自分ならではのオリジナリティも追求した。

 こうして、「我武者羅」の屋号を土日だけ「新潟濃厚味噌 弥彦」に変えて、“二毛作営業”することになった。「弥彦」は業界からも評価され、『TRYラーメン大賞』(講談社)の新人部門と味噌部門でも入賞するほどだった。

 蓮沼さんの職人魂に火が点き、新潟5大ラーメンの一つで燕三条のソウルフード「背脂煮干ラーメン」もメニュー化。平日夜の屋号を「背油煮干濃厚醤油 どっかん」と変えて、新たなラーメンを提供した。昼、夜、土日という三毛作営業はラーメン界でも画期的な取り組みだった。

 新潟ラーメンの手応えを感じた蓮沼さんは、ついに鯛だしを生姜醤油に変更。地元長岡のご当地ラーメンを提供し始めた。当初は予想通りお客さんも減り、定着には時間がかかった。そこで、原点でもある「とうちゃんラーメン」の店主を尋ね、レシピの手ほどきを受ける。すでにお店は閉店していたが、知人を通じてなんとか会うことができた。

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故郷愛が強く、刺激的