図鑑カフェfumikura 店主 井守正暁(いもり・まさあき)/1976年生まれ、東京都出身。新卒で99年に総合書店に入社。地域創育NPO法人などを経て、2006年に家業のチェーン系弁当店に入店。11年、父の死去にともない個人事業主から法人化。16年に東京都練馬区で図鑑カフェ開業(撮影/篠塚ようこ)
図鑑カフェfumikura 店主 井守正暁(いもり・まさあき)/1976年生まれ、東京都出身。新卒で99年に総合書店に入社。地域創育NPO法人などを経て、2006年に家業のチェーン系弁当店に入店。11年、父の死去にともない個人事業主から法人化。16年に東京都練馬区で図鑑カフェ開業(撮影/篠塚ようこ)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年5月15日号には図鑑カフェfumikura 店主・井守正暁さんが登場した。

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 2千冊を超える「図鑑」から気に入った1冊を選ぶ。コーヒーやお酒を片手にページをめくると、眺めているだけで本の世界に引き込まれていく。そんなぜいたくな時間と環境を提供してくれる「図鑑カフェ」のプロデューサーであり、オーナーでもある。

 建築、天体、芸術など、並べているジャンルは幅広い。

「図鑑と言ってもいわゆる図鑑とはちょっと違います。私の感性で選んだものを私の視点で分類し、項目別にまとめた書籍を図鑑として展示しています」

 カフェをオープンする前は両親が経営するフランチャイズの弁当店で働いていた。だが、過重労働が続き、肉体的にも精神的にも追いこまれた。

 大好きな活字を追うのもおっくうになったが、見ているだけで心身を癒やしてくれたのは図鑑だった。「寝る前に図鑑を開き図版を眺めるだけでリフレッシュできました。心が救われる思いでした」

 命には代えられないと、弁当店から図鑑カフェの経営にかじを切った。大学卒業後、書店員として働いていたこともあり、本のことなら詳しい。当時900冊あった自身の蔵書を並べれば誰かの役に立つかもしれない。

 少しずつ集めた本を手放すのにためらいもあった。だが、本当に必要としている人の手元に置いてもらえるのならと、購入できる仕組みにした。最初の900冊はほぼ残っておらず、これだと思ったものを見つけては追加している。

 訪れる人の年代や職種は、卒論の資料を求めてやってくる大学生から、雑談を楽しみにしている90代の男性までさまざまだ。時には出版社の編集者がやってきて、どっさり買っていくこともある。

 並べている本を手にしたお客さんから内容について尋ねられることも多いため、必ずすべてに目を通す。カフェにいる間も時間があれば常に本を読んでいる。

 本の冊数とジャンルは充実しているが、飲食のメニューもそれに劣らない。自家製の果実酒やノンアルコールカクテルなど80種類にのぼる。

「最初はコーヒー豆のひき方も知らなかったのですが、お客さんのリクエストに応えていたらいつの間にか増えていました」

 知的な会話を楽しめるサロンのような空間で、今日も学びの種をまき続ける。(ライター・浴野朝香)

AERA 2023年5月15日号