選挙期間中の街並みの風景。駅や電車の中などにポスターが掲示されている。やはり女性候補者の多さは印象的だ。候補者には番号が割り振られ、投票では番号を記入する。小さな子どもを連れて家族で投票に来る人も多い。選挙小屋ではクレープやキャンディーが振る舞われ、まるでお祭りのようなにぎやかな雰囲気だ(撮影/高橋有紀)
選挙期間中の街並みの風景。駅や電車の中などにポスターが掲示されている。やはり女性候補者の多さは印象的だ。候補者には番号が割り振られ、投票では番号を記入する。小さな子どもを連れて家族で投票に来る人も多い。選挙小屋ではクレープやキャンディーが振る舞われ、まるでお祭りのようなにぎやかな雰囲気だ(撮影/高橋有紀)

 世界最年少の首相が誕生するなど、若者や女性の政治進出が盛んなフィンランド。その土壌はどのように作られるのか。4月の総選挙や学校での主権者教育を現地で取材した。AERA 2023年5月15日号より紹介する。

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 甘い香りに誘われて立ち寄ってみると、焼きたてのクレープに長い行列ができていた。

 フィンランドの首都、ヘルシンキ中心地のショッピングセンター前。「選挙小屋」と呼ばれる各政党のブースが立ち並んでいる。クレープやドーナツをコーヒーとともに振る舞っているのは各政党のサポーターだ。風船やキャンディー、オートミール、反射板キーホルダーにコンドームまで、工夫を凝らした様々なグッズも配られ、まるでお祭りのような雰囲気だ。

■私の1票が結果を左右

 この日はフィンランド議会総選挙の投票日前日。2019年に世界最年少の34歳で首相に就任したサンナ・マリン首相が率いる与党「社会民主党」、中道右派の「国民連合党」、右派でポピュリスト政党の「フィン人党」の三つどもえの戦いとなり、政権の行方が世界から注目されていた。事前の世論調査ではいずれも得票率19%前後という接戦。国民にとっては、自分の1票が結果を左右する緊張感と興奮を感じられる選挙に違いない。

 選挙小屋を訪れていた若い男性の一人は、「投票はもう済ませたんだけど、今日はいろんな人の話を聞けたらと思ってここにきたんだ」と話した。

 投票日5日前に締め切られる事前投票は、40%超えと過去最高の事前投票率を記録した。彼のようにすでに投票を済ませた人も多いはずだが、足を止めてはおしゃべりに花を咲かせる人が多い。

 ところで、日本で選挙の風景と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、あの騒がしい「音」のように思う。候補者の名前を連呼するのみの選挙カー。街角での演説はマイクや拡声器が必須だ。

 一方、フィンランドの選挙中の街中の風景にはあまり「音」の印象はない。駅前などに候補者が立っているのは見かけたが、数人の支援者がいてチラシを手渡ししながら道ゆく人と話をするだけで、静かなものだ。

 学校の課外授業なのか、中学生らしき子どもたちが選挙小屋の各スタンドを回って話を聞いている姿も見られた。子どもたちがいて、コーヒーがあって、カラフルなのぼりが並んで。誰もが気軽に立ち寄り参加できるオープンさがある。

■園児が行き先を投票

 翌日の投票日は、街のあちらこちらで国旗が掲げられていた。

 ヘルシンキ市中央部の投票所では、今回初めて投票にきたという18歳の男性が票を投じていた(フィンランドで選挙権を持つのは18歳から)。ネットで各候補者のインタビューなどを読み、「values(価値観)」を重視して誰に投票するかを決めたという。

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