AERA 2023年4月3日号
AERA 2023年4月3日号

■社会を自分ごととして

 茨木の詩「自分の感受性くらい」を、昨年、RMがSNSでシェアし、日本と韓国双方で話題になった。「自分の感受性くらい」は戦前生まれの茨木の全体主義への反発が込められている。前田さんは「文化・芸術を通して手をつなぐことはできる」と実感したという。

 前田さんは勉強会も主宰している。21年10月には、「BTSの音楽から、韓国を知りたい~なぜ、韓国の人は声をあげるのか」をテーマに、韓国文化に詳しい一橋大学大学院准教授の権容ソク(クォンヨンソク)さんをゲストに迎えて語り合った。前田さんは言う。

「コロナ禍でSNSを通じて自分の意見を発信する若者が増えたと感じます。アジア系へのヘイトクライム、ロシアのウクライナ侵攻など、声を上げる必要性を感じることが続いたことも背景にあると思います」

 いま、BTSは世界の若者たちのオピニオンリーダーの役割を果たしている。

 22年5月、BTSは、米ホワイトハウスでジョー・バイデン大統領と面会し、ヘイトクライムに反対する意思を記者会見で表明した。

「コロナ禍で、小さな世界の中に踏みとどまっているように感じることも多かったけれど、BTSが社会的な問題を“自分ごととして”見つめる視点をもたらしてくれました。BTSとARMYがこの閉鎖的にも見える息苦しい世界を連帯しながら逞しく生きる姿が、小さな世界を超えて、心を、関心を、導いてくれたように思います」

 筆者が直接会った日本からの留学生は、30~40代が多く、それなりのキャリアを積んだ女性たちが仕事を休んだり辞めたりして来ている。周りが結婚や出産を経験している中、コロナも重なり、人生を考え直すタイミングだったのかもしれない。「自分は自分」と肯定してくれるBTSの「Love Myself」に勇気をもらったという人も少なくない。

■成長させてくれた

 18年9月の国連本部でのスピーチで、「Love Myself」キャンペーンとしてBTSが送ったメッセージは、世界中の人々の心を動かしている。

 ボリビア人のヘレン・タボルガさん(19)も、自身を「ARMY」だと公言する。

次のページ