モデルの前田エマさんは、BTSをきっかけに韓国の社会や文化に関心を持ち、韓国へ留学した(撮影/松沢美緒)
モデルの前田エマさんは、BTSをきっかけに韓国の社会や文化に関心を持ち、韓国へ留学した(撮影/松沢美緒)

 コロナ禍でのBTSとの出会いが、人生の転機になった人もいれば、勇気をもらったという人もいる。彼女たちは何に惹かれたのか。AERA 2023年4月3日号から。

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 モデルの前田エマさん(30)は、今年3月から韓国に留学している。コロナ禍にドラマ「愛の不時着」にハマり、それに続けて見たドラマ「梨泰院クラス」で、BTSの存在を知った。挿入歌の「Sweet Night」をメンバーのVが歌っていたからだ。

 以来、BTSの曲を好んで聴くようになった。「世間で話題になっている『Dynamite』を歌っているのが、最近夢中になって聴いているBTSだとなかなか気が付かなかった」が、改めてBTSのパフォーマンスを見て、その美しさと迫力に驚いた。息ぴったりの群舞には、ベルギーのダンスカンパニー「ローザス」を初めて見たときと似た感動を覚えた。

 ARMYがアップした動画やブログを通してBTSの活動や曲に込められた意味を知り、魅力の虜になっていった。

 BTSの楽曲の歌詞は普遍的で、だからこそ、一人ひとりが自分の人生や社会に起きていることと紐づけて考えることができる。前田さんの関心は、韓国の社会や文化にも広がった。

 前田さんはこれをきっかけに、韓国で実際に起きた事件や事故にまつわる小説、キム・エランの『外は夏』や、ハン・ガンの『少年が来る』を読んだ。「読んでいてひりひりするような痛みを感じ、こんな小説があるのかと心が震えた。私も社会に対して抱える不満や疑問を書いていいんだと、背中を押してもらった」。昨年、発表した小説『動物になる日』(ミシマ社)はその賜物だ。

 韓国文学のほか、日本の詩人・茨木のり子(1926~2006)からも韓国語を学ぶ刺激を受けた。茨木は50歳で本格的に韓国語を学び始め、エッセイ『ハングルへの旅』を通し、韓国で人気の詩人・尹東柱(ユンドンジュ)を日本に紹介したことで知られる。尹は戦時下、留学先の日本で治安維持法違反で逮捕され、獄死した。

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