長女の担任の先生大好きな絵本に出て来るおたまじゃくしのキャラクターを真似してつくった教材。先生は、目と手の動きが連動できれば活動の幅が広がると考えたそうです(撮影/江利川ちひろ)
長女の担任の先生大好きな絵本に出て来るおたまじゃくしのキャラクターを真似してつくった教材。先生は、目と手の動きが連動できれば活動の幅が広がると考えたそうです(撮影/江利川ちひろ)

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 つい最近、インクルーシブ教育を推進するためのフォーラムに参加しました。

「インクルーシブ教育」という言葉が日本でも頻繁に使われるようになってから10年以上たちますが、フォーラムに登壇した方の困りごとの訴えは、10年前から変わっていないことも多く、どうしてこんなにシステムが進まないのかを改めて考えてしまいました。

 海外と比べ、日本でインクルージョンがなかなか浸透しないことには理由がありそうです。今回は、インクルーシブ教育について書いてみようと思います。

■障害児を分離した特別支援教育が主流の日本

 登壇された方の発表には、海外の事例もありました。欧米では、さまざまな障害のある子どもたちと健常児が同じ教室で学ぶことが当然になりつつあります。特別支援学校や特別支援学級を全面的に廃止した国や州もあるようです。一方、日本では障害のある子どもを分離した特別支援教育が主流で、昨年9月には国連の障害者権利条約委員会は、通常学級への就学を認めるよう日本政府に勧告を出しました。

 インクルーシブ教育が進む地域と日本の環境と比較してみると、圧倒的に違うのは校内での教員数だと思います。日本の教育現場では、人手不足や人件費の問題などで教員免許がない方が介助員として入る場合もあり、育児が一段落した先輩ママや教育学部の学生さんらが障害のある子どもに付きます。  

 でも、海外では特別支援教育にしっかり予算を付け、十分な教員数の確保を実現していることが多いのです。たとえば、小学校のクラスに障害のある生徒がいた時に、担任の先生がひとりですべてのケアをこなすのは不可能ですが、複数の先生が協力しながら子どもたちに関わることができれば、通常学級での受け入れ幅も広がると思います。

 フォーラムの報告の中にあったカナダの例では、リソース教員という個別計画を担当する先生の他に、約1年ほど、教育委員会や学校で研修を受けた教員がエデュケーション・アシスタント(EA)として、クラスに配置され、障害のある子どもたちの学びをサポートするそうです。EAは、生徒200人に対し、10人もいるとのことでした。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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