(c) 2021 Greenlit Productions and New Docs
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 北欧の人気ブランド「マリメッコ」で、有名なケシの花をはじめ500以上のデザインを生み出したマイヤ・イソラ。彼女には驚きの人生があった──。マイヤの娘クリスティーナへの取材や、マイヤ自身がしたためた多くの手紙や作品から「女性の生き方」にも思いを馳せるドキュメンタリー。連載「シネマ×SDGs」の43回目は、彼女の生き様を描いたドキュメンタリー「マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン」のレーナ・キルぺライネン監督に話を聞いた。

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 子どものころからマリメッコのファブリックは身近にありました。でもそれをデザインしていたマイヤ・イソラのことは知らなかった。多くの北欧人も同じです。マイヤは表に出るタイプの人ではなかったから。死後、娘のクリスティーナが書いた文章で、初めてマイヤの人生を知りました。クリスティーナを訪ねて「映画にしたい」と言うと快諾してくれました。まるで待っていてくれたかのように。

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 1927年生まれのマイヤは男の子を望んだ両親にとって「期待外れ」でした。彼女は19歳でクリスティーナを出産すると娘を母に預けて芸術学校に進み、才能を開花させます。世界中を旅しながら画家として絵を描き、500以上のデザインをマリメッコに提供し、3度の離婚を経験しました。

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 クリスティーナに会ったとき、はじめは母に置き去りにされた娘の悲劇の物語をイメージしていたんです。でもマイヤの人生を理解するうちに、それは映画のごく一部になりました。マイヤは創作に没頭しながら娘に多くの手紙を書き、カセットテープで声を送っています。創作と家族とのあいだで格闘していたのだと思います。

レーナ・キルぺライネン(監督)Leena Kilpelainen/1959年、フィンランド・ヘルシンキ生まれ。監督、撮影監督、脚本家。「ソクーロフの声」(2013年)に次ぐ長編ドキュメンタリー。全国順次公開中 (c) 2021 Greenlit Productions and New Docs
レーナ・キルぺライネン(監督)Leena Kilpelainen/1959年、フィンランド・ヘルシンキ生まれ。監督、撮影監督、脚本家。「ソクーロフの声」(2013年)に次ぐ長編ドキュメンタリー。全国順次公開中 (c) 2021 Greenlit Productions and New Docs

 私にも娘が1人います。彼女が3歳のときに離婚し、元夫と2週間交代で世話をしていたのですが、当時は自分のキャリアを積むための大事な時期でもありました。私は家族と一緒にいながら創作をすることは難しいと悟りました。創作には一人の時間が必要です。マイヤの葛藤にとても共感しました。

 彼女はデザインや絵画を常に変化させ、そこにはその時々の彼女の人生や世界情勢がそのまま表れています。恋人と別れた後にとてもカラフルな作品を作ったりしています(笑)。本作を観たあと彼女の「作品」を、新たな視点で身につけてもらえるかもしれません。(取材/文・中村千晶)

AERA 2023年3月13日号