「『○○くん早くしなさいよ』『みんな待ってるんだから』『ちゃんとしなさい』と、特定の先生がイライラしながら声を張りあげることがあります。オンラインミーティング中に叱る声が聞こえると、わが家から発した声だと勘違いされそうで心配になります」

■子どもの声だけでなく、職員の声やテレビ音も苦情

 運動会が近づくと、鼓笛隊の練習も始まる。

「楽器の練習音はかなり大きいので、その時期は園庭から離れた息子の部屋で仕事をするようにしています。幼稚園側からは練習期間のお知らせがきますが、音について気をつけている様子は特にありません」(女性)

 ある自治体の関係者は、これまでもあった公園使用についての苦情に加え最近は“仕事にならない”という苦情が寄せられるようになったと話す。

「テレワーク(在宅勤務)が増えたからでしょうかね」

 都内20カ所で保育園を運営する事業所にも、コンスタントに苦情が入る。関係者は言う。

「住宅街にある保育園ほど苦情が上がりやすい。子どもの声がうるさいというだけでなく、職員の声や、テレビの音がうるさいという苦情もきます」

 保育施設と音の環境を研究する片岡寛子さん(電気通信大学特任助教)らの調査によると、保育施設新設に反対すると回答した人の懸念理由のトップが「交通量の増加」だった。子どもにまつわる騒音問題は、複数の要因が絡み合って生じていることがうかがえる。

 前出の倉片さんはこう助言する。

「苦情を言う人は強い人間だと思われがちだがそうではない。むしろ『困っています』というSOSです。何を騒音に感じるかや騒音に感じる理由もそれぞれある。苦情を言われた側はいったんは譲り、防音のための対策を考えると伝え安心してもらうことで苦情が減るケースもあります」

 子どもにまつわる音の問題を研究する「こどものための音環境デザイン」代表理事の船場ひさおさんは、社会問題となった背景を二つ指摘する。

 一つは待機児童解消に伴う保育施設の増設。もう一つはそれに伴い過熱した騒音に関する報道だ。

「待機児童解消のため保育施設をどんどん増やそうとなりました。その頃から騒音問題が社会問題となり、報道されるようになりました。『子どもの声は騒音だ』と主張する様子がたびたび報道され、それを見た人たちが『あ、言ってもいいんだ』と思ってしまい、件数が増えた。それがここ十数年の変化だと思います」(船場さん)

(フリーランス記者・宮本さおり、ライター・大楽眞衣子)

AERA 2023年2月6日号より抜粋