やりたいと思ったら徹底的にのめり込むというマーカス加藤絵理香(photo 写真映像部・加藤夏子)
やりたいと思ったら徹底的にのめり込むというマーカス加藤絵理香(photo 写真映像部・加藤夏子)

 シンプルかつ簡潔な表現、明確なストーリーづくりを心掛けた。

「とにかくシンプルに、シンプルにというのは、これまでもいわれてきたことでした。スライドづくりにしても、書類づくりにしても、ソニーでは、シンプルじゃないのは嫌われますね」

 と、笑う。

 5年後の18年1月、「長い間、海外にいたため、そろそろ日本に戻りたい」と願い出て、日本に戻った。

 同年4月、吉田が、社長兼CEOに就任した。ソニーの業績は上向き始めていた。

 挨拶にいくと、吉田から「ぜひ、手伝ってほしい」といわれた。エリカは、吉田の社内外のコミュニケーションをサポートする仕事に就く。

■自分らしさとは

 吉田は、エリカにこういった。「最初にやりたいのは『MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)』の見直しなんだ」と。彼女は、キーパーソンとして動いた。

 約半年、経営チームを巻き込んで「MVV」を定義しなおした。それが、現在のソニーグループの「Purpose」だ。「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」──である。

 自分らしくありたい、自分らしく働く。それは、簡単なようで簡単ではない。自分らしさとは、さまざまな経験、チャレンジ、葛藤の上に手に入れるものではないか。彼女を見ているとそう思う。

 22年夏、エリカは北アルプスを縦走した。白馬岳から朝日岳も含むロングトレイルだ。

「年に1、2回、10キロ前後の荷物を背負って山にいきます。昨年は、一人で野古道を歩きました。高野山から熊野本宮大社まで約70キロ、4日間で出会ったのは1人だけでした」

 エリカにとって、幸せとは何なのか。

「もっと世の中に貢献したい。女性としてもっと活躍したいし、その姿を見せたい。私を見て、エンカレッジされる人がいたらうれしい。この人がいてよかったなっていう存在になりたいんですよ」

 と、熱く語る。(文中敬称略)(ジャーナリスト・片山修)

>>【前編の記事はこちら】やりたいことを見つけ手をあげるのがソニー流の働き方 自分のキャリアは自分でつくる女性社員の熱量

AERA 2022年12月12日号より抜粋