安藤サクラ(あんどう・さくら)/1986年生まれ、東京都出身。奥田瑛二監督作「風の外側」(2007年)で映画デビュー。主な映画出演作に「百円の恋」(14年)、「万引き家族」(18年)など(撮影/山本倫子)
安藤サクラ(あんどう・さくら)/1986年生まれ、東京都出身。奥田瑛二監督作「風の外側」(2007年)で映画デビュー。主な映画出演作に「百円の恋」(14年)、「万引き家族」(18年)など(撮影/山本倫子)

安藤:私は他の人になりたいという欲望があります。例えば、世界一速く走れる人になれるんだったらその能力が欲しいし、何も思わずに涙を流せる人になれるならその能力も欲しい。なんだって興味があります。いろんな人を演じると、考え方を理解できない人の言葉であっても、言ってみたら「そういうことか」と納得したことがすごくたくさんあります。出会う役というのは、誰かといてその人をもっと深く思いやることだと思う。だから得るものが多すぎて、私は現場で誰かを演じることがものすごく自分の人生のインプットになる。逆に、それ以外で私の人生で何をどうしたらいいのかわからないことが多い(笑)。誰かを演じることは、自分の学びになることがすごく多いです。

──本作に出演して印象に残ったことは何だったのだろうか。

妻夫木:僕はこの作品と出合えたことで楽になりました。どこかで自分とはなんなのかとずっと考えていたような気がするんです。認めたくない自分とか許せない自分とか失敗した自分とか。どこかでそんな自分を排除しようとしていた自分がいるのかもしれませんが、そういう自分さえも認められるようになったというか。そういう自分も自分なのではという感覚をもらいました。だから、いろんなことに対して自由になりましたね。

安藤:この作品をきっかけにグイッと変わったんですか。

平野啓一郎の同名小説を映画化したヒューマンミステリー。11月18日から全国公開 (c)2022「ある男」製作委員会
平野啓一郎の同名小説を映画化したヒューマンミステリー。11月18日から全国公開 (c)2022「ある男」製作委員会

■考え方が柔軟になれた

妻夫木:そうだね。この作品をきっかけにやり始めたことがすごく多くて、しかもずっと続いている(笑)。熱しやすく冷めやすいタイプの人間だったのに、いろんなことに対して、考え方が柔軟になれたのかな。僕はこうと決めたらずっとやりたいタイプなんですけど、目標を決めるとやっぱりどんどん自分がしんどくなっていく。そういうものを持たなくなったんだ。おかげで一つの物事に対し、シンプルに自分の純粋な気持ちと付き合えるようになりました。

安藤:実は私もこのくらいの時期からめっちゃ変わったんです。

妻夫木:本当?

安藤:私もこの映画に入った時は、いろんなことをくよくよ考えていた時だったんですが、撮影が終わって以後は、いろんなことを割り切るようになれた。窪田君にすごく相談していたんだよね。その辺から自分がどうすれば生きやすくなるのかわかるようになった。生活も仕事も余計なことを考えないからパフォーマンスが上がるんだって。その節は窪田君、ありがとう。窪田君も変わったよね(笑)。

窪田:お二人の流れからしたら変わりました、ですね(笑)。でも、この作品に出演できてよかったなと純粋に思いました。僕は一映画ファンとして、映画にもっと携わりたいと思っていた時にオファーいただいたんです。ここからが僕の分岐点と勝手に思っているんですが、一番この映画に出て思ったことは、私生活の時間をもっともっと大事にしようということ。僕は以前は休みがあると不安で、私生活を置き去りにしていたんですが、結婚をしたこともあって、私生活の豊かさで心の機微のようなものがどんどん生まれていきました。現場での心のゆとりや居住まいみたいなものなど、視野が狭かったと今は感じます。みなさんと話して改めて思いましたが、本当にこの作品から変わったのかもしれません。人生を変えてくれる映画ですね。

(構成/フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2022年11月21日号