AERA 2022年11月21日号より
AERA 2022年11月21日号より

 内閣府が2021年に公表した調査結果では、女性の14人に1人(6.9%)、男性の100人に1人(1.0%)が、無理やり性交などをされた経験を持つことが明らかになった。単純計算で被害者数は数百万人にも及ぶ。いまの日本は、性被害に遭うことが決して珍しいことではないと言えるだろう。一方で「被害がある」と答えた人の中で、警察に相談したのはたった5%にとどまっている。

■被害の認識に時間

 被害者らによる一般社団法人「Spring」の佐藤由紀子代表理事は、

「多くの人は被害後、生き延びるだけで精一杯になり、警察に行く勇気を持つことができません。加害者の部屋に行ったということを同意したとみなされるかもしれない。性犯罪被害だと認めてもらえないかもしれない、と葛藤し、繰り返し自分を責めます。その結果、被害を被害だと認識することに時間がかかるケースが多い」

 と話す。同法人が20年8~9月に実施した「性被害の実態調査アンケート」によると、報告された5899件の被害のうち、半数以上の人が「すぐに被害だと認識できなかった」と回答。被害の認識まで平均で7.01年かかることがわかっている。

 いま、セクハラや性加害をめぐるニュースが、連日多く報じられている。ジャーナリストの伊藤詩織さん、元自衛官の五ノ井里奈さんなど、自身の被害を実名と顔出しで告発する人の登場や、ハリウッドのプロデューサーへの性的被害の大量告発を機に世界的に広まる「#MeToo」運動が気運をつくっている。

 冒頭の女性は言う。

「でも、私は一切見ていないし、記事を読むこともありません。直視できない。思い出してしまうとつらいから」

 被害に遭った場所で流れていた曲、加害者の勤務先が販売している商品──。ありとあらゆるものがフラッシュバックにつながるという。回復は非常に難しい課題だ。

「性被害による心の傷は風邪とは違うので、100%治ることはありません」

 と話すのは、性暴力をなくそうと活動するNPO法人「しあわせなみだ」(東京)の千谷直史理事だ。同NPOの中野宏美代表は、多くの被害者と向き合う中で気づいたこととして、

「被害を受けたことによって出会えた人に感謝したり、他人の痛みに気づけるようになったりすることを無駄ではないと思えるようになると、少しずつ心のフタを調整できるようになる。がんの寛解に近い」

(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年11月21日号より抜粋

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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