撮影/写真映像部・松永卓也
撮影/写真映像部・松永卓也

 令和になっても、セクハラや性暴力は依然あちこちにはびこっている。もし被害に遭っても、警察に相談する人は少ないという。なぜ、性被害は埋もれてしまうのか。AERA 2022年11月21日号の記事を紹介する。

【図】あなたは大丈夫? その発言、セクハラです!

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 大阪府の営業職の女性(40)は3年前、勤務先の50代の社長から性被害を受けた。年1回の社長や役員を交えた会議があった日の夜のことだ。

 懇親会と称した飲み会は深夜まで続き、酔った社長を数人で抱えながら宿泊先のホテルまで送ることになった。同じホテルに泊まる役員と支社長、課長と女性の計5人でホテルまで移動。なぜか課長と支社長はロビーに残り、女性だけが社長を部屋まで送っていくことに。役員は違う階の自室にさっさと1人で帰っていったという。

 社長の部屋の前で帰ろうとしたものの、「異動のことで話があるから入れ」と言われ、部屋の中へ。話をするうちに、ベッドに押し倒された。身体を舐められ、服を脱がされかけた。大柄で、かつ人事の全権を握っている社長が相手では、抵抗したものの恐怖心が強く、ほとんど身体が動かなかったという。ロビーにいる支社長から携帯電話に何度か着信があったが、社長は、

「あいつは俺の舎弟だ。出なくていい」

 女性はもがくうちにベッドから転がり落ち、社長の身体が離れた一瞬の隙に逃げ出した。ワンピースのリボンが破れ、髪はぼさぼさ。膝には青あざが残った。時間にして1時間ほど。支社長と課長は向かいの居酒屋で、のんきに飲み直していたという。女性は、

「あの時、どうして私だけが部屋まで送り、さらに中に入ってしまったのか。ずっと自分を責めています」

■誰にも言えないまま

 翌朝、社長からは題名のないメールが届いた。謝罪らしき文言は「昨夜は失礼しました」のひとことだけ。続けて「異動の件ですが」と仕事の話題ばかりが書かれていた。社内の相談窓口に通報しようとしたものの、担当者一覧にある社員の名前を見て、味方になってくれる人はいないと感じ、やめた。

「私は独身で、もしかすると今後も1人で生きていくかもしれない。悔しさはもちろんあるけれど、職を失う恐怖が強い」

 女性は、新卒で入社して以来、おかしいと思ったことは積極的に発言する「モノ言う社員」だったが、あの夜のことは今も誰にも言えないままだという。

 こうして埋もれていく性被害は、いったいどのくらいあるのだろうか。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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