8月2日、テヘラン中心部にある大バザール(市場)の様子。店舗の外にも商品が並べられ、買い物客でにぎわっていた(撮影/飯島健太)
8月2日、テヘラン中心部にある大バザール(市場)の様子。店舗の外にも商品が並べられ、買い物客でにぎわっていた(撮影/飯島健太)

■「いま勝ち得なければ」

 警察官が暴行したのではないか──。

 警察はアミニさんの死後、暴行を否定した。持病があり、意識喪失の理由を「心臓発作」とした。

 だが、アミニさんの父アムジャドさんは国内外のメディアに、娘は逮捕前まで健康で、死亡の原因は警察官による殴打だと訴えた。風紀警察の横暴を知る女性は多く、警察側の言い分は余計に疑惑を抱かせた。

 アミニさんの葬儀があった9月17日を境に抗議行動は全国へ広がり、1カ月が過ぎたいまでも収まる気配はない。

「女性、命、自由!」

 デモの主なスローガンから見えることがある。女性は、イスラム法学者を国のトップとする現体制に自由を奪われてきており、体制そのものの転換を要求する、という点だ。

 抗議行動で目立つのは、高校生や大学生といった若い世代の、しかも女性たちの姿だ。

「いま変革を勝ち得なければ、将来は暗いままだ」

 10月上旬の抗議集会に参加した22歳の女子学生はこう話した。この学生はアミニさんと同じ年齢。5年前、風紀警察に逮捕された経験がある。捜査車両に力ずくで押し込まれた恐怖はずっと忘れられない。今回も同じ大学の学生2~3人が逮捕された。親は心配している。それでも、「いま立ち上がらないと未来はない」と考えている。

 欧米社会を中心にヒジャブ着用の強制は女性抑圧の象徴と捉えられ、その廃止を訴える声がイラン国内からも出たのは当然だろう。さらに、多くの男性も加わり、体制の終焉さえも訴える。(朝日新聞テヘラン支局長・飯島健太)

AERA 2022年10月31日号

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飯島健太

飯島健太

1984年埼玉県生まれ。2007年、早稲田大学を卒業後、朝日新聞社に入社。奈良・高松の各総局、大阪社会部で主に事件や災害を取材。2017〜18年にイギリスのロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)国際政治学修士課程に在籍し、修了。2020年4月、テヘラン支局長に就任後、同年10月から2023年1月まで同支局に赴任。同年2月から大阪社会部で事件の取材を担当

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