マフサ・アミニさんの死亡後、イランでは抗議デモが全土に広がっている/テヘラン、9月21日(photo アフロ)
マフサ・アミニさんの死亡後、イランでは抗議デモが全土に広がっている/テヘラン、9月21日(photo アフロ)

 ヒジャブの着用が「不適切」だとして逮捕された女性の死を受け、イラン全土で抗議行動が続いている。目立つのは若い女性たちの姿だ。AERA 2022年10月31日号から。

【写真】テヘラン中心部にある大バザールの様子

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 夕闇の中、街灯のオレンジ色の光が、路上の車を照らす。男の声が静けさを裂いた。

「独裁者に死を!」

 9月22日夜、イランの首都テヘラン北部。マンションが立ち並び、普段は静かな住宅街だ。20歳ぐらいの男性3人組が暗がりに見えた。上下、黒い服姿。近くの幹線道路バリアスル通りの方に消えていった。

 1時間も経たないうちに、パーンという銃声のような乾いた音が聞こえる。「おー」「わー」という、歓声とも悲鳴とも聞こえる声が続く。車が一斉に、そして、絶え間なく「パー」「ブー」とクラクションを鳴らした。抗議デモだった。

 現場には、緑色の制服を着た警察官や迷彩服姿の治安部隊、正規軍とは別の軍事組織である革命防衛隊傘下の民兵組織バシジが配置され、その数は200人を優に超えた。それぞれが武装し、腰に拳銃、肩に長さ50センチぐらいの銃、手には特殊警棒を持っている。

■体制への不満が噴出

 群衆に向けて催涙弾が立て続けに発射された。一帯は白い煙に覆われる。煙は周りの住宅の室内にまで入り込んだ。路上に置かれたゴミ箱は放火された。炎があたりを照らし、異臭も漂った。

「市民の側が武器を取ることになればすぐに内戦が始まるような、すごく嫌な感じだ」。在テヘランの外交筋は語った。

 こうした緊張は、“あの日”を境に起こった。9月16日、22歳だったマフサ・アミニさんが逮捕後に急死したのだ。

 その死は、1979年に成立した革命で始まり、43年を超したイスラム体制に対する長年の疑問や不満を噴出させた。

 イランのすべての女性に対して、ヒジャブと呼ばれるスカーフで髪を隠すことが83年、法律で義務づけられた。西部クルディスタン州出身のアミニさんは、逮捕当時、訪れたテヘランで地下鉄の駅近くを歩いていた。そこへ来た風紀警察に、ヒジャブの着用が「不適切」だとして逮捕された。

 警察当局の発表によると、アミニさんは逮捕後に移送された警察署で急に意識を失い、搬送先の病院で死亡した。

 しかし、SNSにはアミニさんが病院のベッドに横たわる写真が出回った。首のあたりに白い包帯が巻かれ、耳からは血液が流れたような痕が見える。

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