話を聞けることになったとき、挑戦し続けることができる原動力の、その原点は何かを探らせてもらいたいと思っていた。そのやりとりの中で、羽生はそのときのことを思い出しながら話をした。

「『自分だけがうれしい』だったら、ここまでやれていないですし、今もやってなかったと思います。みんなが幸せだから、自分も幸せっていうふうに思いますね。それが、ある意味では原動力っていうものになるのかな」

撮影/写真映像部・東川哲也
撮影/写真映像部・東川哲也

■やってきた意味あった

「北京オリンピックが終わったあとに『報われなかったな』と言っていたじゃないですか。でも、今は報われたと思っているんですよ。それは、皆さんがこうやって、自分の演技にいろいろな価値を見いだしてくれ、評価してくれたから。もちろん失敗はしたし、勝てていないし。ただ、その失敗も含めて、自分の演技自体にすごく評価をしてくださった。それは点数や順位とかの評価ではなくて、自分という人間に対しての評価だったと思います。そういう意味で、やってきた意味があったな、と。そして、『あの演技を見られてよかった』と言ってくださる人がたくさんいらっしゃったので、みなさん幸せな気持ちになってくれているんだとしたら、僕は幸せだなと思えます。皆さんが幸せそうにしていること、それがうれしいんですよね。みんなが幸せであることがうれしい」

 それを聞いて、私は「それなのかもしれないですね」とつぶやいた。

 羽生は、「そうなんですよね」と言った。口にはしなかったが、私は「よかった」と思った。

「スケートをやっていて幸せだなと思うことが、いまはそんなにないですけど、でもそれは、今は準備期間だから。だから、またアイスショーをやったり、皆さんにスケートを見ていただくそのときはまた、『自分は幸せだな』と感じられるように、今の苦しい時期を乗り越えたいなと思っています」

 プロのアスリートとしてスケートを続けていくことを表明したのは7月19日。

 既にその活動は始まっている。今後はどんな演技をし、どんなことを話してくれるのか。いったいどんな歩みを見せてくれるのか。期待せずにはいられない。

(朝日新聞スポーツ部・後藤太輔)

AERA 2022年10月10-17日合併号