シーズン最多本塁打数に挑んでいるヤクルト村上宗隆選手。本塁打数だけでなく、村上選手の野球の向き合い方も注目したい。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。

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 ヤクルト・村上宗隆(22)の野球に向き合う姿勢、人間性について、巨人や大リーグ・ヤンキースなどで日米通算507本塁打をマークした松井秀喜氏と重なると球界関係者たちが口をそろえる。松井氏は常にフォア・ザ・チームの精神を貫き、個人記録のために強引な打撃を見せることはなかった。村上もベンチで声を張りあげてナインを鼓舞し、自身が打てなくても悩んだ姿を人前で見せない。

 9月2日の中日戦(神宮)で三回1死一、三塁から先制の50号3ランを放ち、松井氏のシーズン最多本塁打数に並んだ時のヒーローインタビューが象徴的だった。背番号55の先輩に並んだことについて聞かれると、「この番号をもらった時から目標にしていました。数字で並べたのはすごく誇りに思います。まだまだ先の、自分の中での目標を達成できるように頑張りたいなと思います」と心境を語った。今後の目標に質問が及ぶと、「数字的なことじゃないんですけど、僕は日々成長を掲げているので、1本のヒット、ホームランに満足せず、明日、明後日と常に成長したいなと思っています」。飽くなき向上心で常に高みを目指している。

■課題を克服する速さ

 課題を克服するスピードが速いのも特徴だ。高卒1年目の18年に2軍のイースタン・リーグで打率2割8分8厘、17本塁打、70打点、16盗塁をマーク。9月16日に1軍昇格すると、同日の広島戦(神宮)で二回にフォークを弾丸ライナーで右翼席に運ぶプロ初打席初本塁打の鮮烈なデビューを飾る。ただ、6試合出場で安打はこのアーチのみ。12打数1安打、打率8分3厘で5三振を喫した。

 ヤクルトを取材していたスポーツ紙記者は、こう振り返る。

「当時の村上は速い球に対応できなかった。ファームでは逆方向に長打を飛ばし、変化球を打つのもうまかったのですが、1軍の投手のキレのある直球を捉えきれずファウルにしたり空振りしていた。同じ左打者で長距離砲の筒香嘉智(現在は大リーグ・ブルージェイズ傘下のマイナーチームに所属、30)と似ているように感じました。筒香も横浜(現DeNA)入団時から変化球をうまくさばいてファームでは格の違いを見せていたが、直球への対応に苦しんでレギュラーをつかんだのはプロ5年目だった。村上も一本立ちするまで少し時間がかかるかなと思いました」

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