「安倍元首相の国葬反対」などと訴える人たち。集会には多くの人が参加した=9月19日午後、東京都渋谷区
「安倍元首相の国葬反対」などと訴える人たち。集会には多くの人が参加した=9月19日午後、東京都渋谷区

 9月27日の安倍晋三元首相の国葬中止を求めるオンライン署名サイトには47万3千筆(23日正午時点)を超える署名が集まった。呼び掛け人の一人、東大名誉教授の上野千鶴子さんに反対する理由を聞いた。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。

【図】安倍晋三元首相の国葬に賛成の人はどのくらいいる?

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 国葬中止を求める署名活動の原点は2015年夏にさかのぼります。第2次安倍政権が安全保障関連法制を国会で成立させようとした際、市民は連日、国会前で大規模な抗議行動を展開しました。このとき、私たちは党派を超えた連帯を築きました。その母体が「総がかり行動」(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)です。今回、ごく短期間で個人や団体を結集できたのは、このネットワークが維持されていたからです。つまり、今回の署名活動は「2015年夏の遺産」といえます。私たちは「アベ政治を許さない」し、「2015年夏を忘れていない」ということを、まず強調しておきたい。

 安倍さんは自民党にとって救世主だったことでしょう。しかし、我々にとって安倍政権の8年8カ月は「悪夢のような時代」でした。これって、安倍さんが民主党政権を指して繰り返したセリフですね。歴史修正主義の傾向が強く、「日本会議」のような右派団体と深いつながりのある安倍政権は発足当初から海外メディアに「極右政権の成立」と報道されました。

■値する人物でない

「安倍政治」を振り返れば、安倍さんが国葬に値する人物でないことは明白です。

 とりわけ女性政策は、安倍政権の前史から着目する必要があります。自民党が05年に立ち上げた「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査」プロジェクトチームの座長は安倍さんでした。このチームは内閣府が検討していた男女共同参画基本計画改定に当たり、「ジェンダー」という文言の削除を要請します。この政治圧力を受け、内閣府は「ジェンダー・フリー」という言葉を使わないよう全国の自治体に通達しました。

 首相就任後も安倍さんの言う「女性の輝く社会」や「女性活躍」に、私たちジェンダー研究者は全く信用を置けませんでしたし、事実、的外れの政策ばかりでした。07年に発足した「美しい日本をつくる会」という安倍さんを支援する政治団体は、男女共同参画社会基本法改廃を目的に掲げました。

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