――「相反する感情が同居して、初めて本物の感情になる」ことも意識したという。

福山:表現においては、登場人物の心の中に、割り切れない矛盾した感情を混在させることを意識して制作しています。「自分って嫌な性格だよな」と自己肯定感が低めでも、困っている人が目の前にいたらつい手を差し伸べてしまう自分もいる。さまざまな矛盾を自覚しながらも生きていくのが“その人らしさ”なんじゃないかなって。そして、そんな複雑な感情を紡ぎ合わせ、作品として昇華させる作業がクリエイティブなのだと僕は思っています。

 歌詞の中にもあるように、例えば人を愛することひとつとっても、「今は逢えなくなった大好きな君が、いつか誰かを愛し、愛されることを心から願っている。でもそうなることが本当は少し寂しいんだよ」というのが本心だとすると、本心ってひとつじゃないな、と思うんです。

■カヴァーソングで発見

――20年3月にはデビュー30周年を迎えた。「30年後の83歳になっても歌っていると思う」と話すが、「30周年を迎えて、自分のソングライティングの棚卸しができた感覚があった」と言う。

福山:僕は今まで何のためにソングライティングをすることに拘(こだわ)ってきたのか? 動機をはっきりと言語化できていませんでした。それが30周年のアルバムを作っていて、ほぼ完成という段階になったときに「画竜点睛を欠く」というか、「どうも何か書ききれていないものがあるぞ」と感じたんです。それでアルバム制作の最後に作ったのが、「AKIRA」という亡くなった父を歌った楽曲でした。

 その曲を作り終えたときに、「僕がソングライティングをしてきた理由は、自己救済のためだったのかもしれない」と気付きました。僕が17歳の時にがんで闘病していた父と、それを支えた母、過酷な現実に何もできなかった自分。その無力さや絶望感から逃げ出すように、当時の僕はバンド活動に没入していました。あのとき何もできなかった17歳の自分を救うために53歳になる今日までソングライティングをやってきたのではと。

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