AERA2022年9月26日号より
AERA2022年9月26日号より

「再稼働だけでなく、ついでにこの際、新型炉まで言ってしまおうということにしたのだろう。ショックが1回で済むから。原子力産業を維持しなければいけない、このままでは死に絶えてしまうという業界の声に応えて、新型炉の開発と言えば、最低限の開発体制は維持できて、メーカー、電力会社、研究所に『お仕事』が発生する」

 東電原発事故の時には、全国に54基の原発があった。事故後は、安全対策の強化が経済的に見合わない、技術的に難しいなどの理由で古い炉を中心に21基が廃炉になった。

 残る33基のうち、現在、再稼働しているのは10基だ。事故前の10年度には原子力が25%の電気を作っていたが、20年度は4%にすぎない。

 首相が再稼働に向け「あらゆる対応を採る」とした7基は、避難計画の実効性があるかの確認や地元の同意を得る段階になっている。しかし東京圏に電力を送りやすい東海第二原発や、柏崎刈羽原発(新潟)6、7号機の再開は政府の思惑通りに進むとは思えない。

 東海第二原発は避難計画に実効性がないとして、21年3月に水戸地裁が運転差し止めの判決を出している。首都圏に最も近く、30キロ圏内の人口が94万人と最も多い原発でもある。

「突然、来年の春とか夏とか(に再稼働)という話にはちょっと難しい」

 首相の指示の翌日、茨城県の大井川和彦知事は会見でそう話した。

 柏崎刈羽原発はテロ対策の不備が見つかり、原子力規制委員会が21年4月に再稼働の準備を事実上禁じる命令を出しており、これが解除されない限り再稼働はできない。同原発の稲垣武之所長は岸田発言の翌日、こう述べた。

「我々としては再稼働の時期などを申し上げられる段階ではない」

 北村さんは言う。

「説明会の回数積み上げと交付金や基金をてこに交渉するといった今までの方策が通用するとは思えない。当面の対策は、大口の需要家に万一の場合の生産停止の予約や、企業の自家発電を回してもらえるような、綿密な需給調整計画をたてておくしかない」

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