秀島:私は井上さんの「若い人に最新情報を教えてもらう」姿勢も素晴らしいと思いました。年を重ねると、考えが凝り固まりがちですし……。インプットはどうされてますか?

井上:じつはコレと言える趣味がないんです。学生スポーツが好きなので、学生野球を観戦したりするんですけど、趣味と言っていいのか。

秀島:私は散歩でしょうか。季節を感じたり、道ゆく人の姿を眺めていると、発見があって。新しいことにも挑戦するようにしています。それも、本当に小さなこと。スーパーでいつもと違う銘柄のお米を買ったり、目新しい食材を試してみたり。初めて名前を聞いたスポーツをユーチューブで調べてみるだけでも、新しいものが自分のなかに入ってきて、「使わなければ」という気持ちになります。

■「伝える」と「伝わる」

井上:その目線がラジオのリスナーさんとの絶妙な距離感に生きているんですね。

秀島:ラジオはリスナーさんと同じ部屋で話しているような温度感が不思議なメディアです。だからこそ、リスナーさんに「伝わった」と感じる瞬間は、すごくうれしいですね。

「伝えること」と「伝わること」の違いは、自分本位かどうかの違いが大きいと思うんです。言葉を発したあとに、相手に丸投げするのは「伝える」、相手のなかに納得感があるのが「伝わる」なんですよね。こちらの意見に賛成してもらえなくてもいいんです。聞く耳を持ってもらえたなら、それは伝わっていると考えています。

井上:「伝える」のは1人でできますけど、「伝わる」のは、話し手と聞き手の2人がいるから成り立つもの。自分が主なのか、相手が主なのかの違いは大きいです。

秀島:私も子どもに読書好きになってもらいたいので、「本を読もう」ってよく話すんですが、子どもの立場からすれば、なぜ読書がいいのかわからない。「国語力が上がる」「語彙が増える」と言っても伝わりません。でも、「友だち関係の悩みも、本を読むといろいろなことに気づけるよ」と、子どもの気持ちに寄り添って話すと、私の意図が伝わります。相手の気持ちと言葉を受け止めて、そこから返して、言葉をぐるぐる回していく。それが「伝わる」ということなのでしょうね。

井上:「今のあなたの話を聞きたいです」という気持ちが、じつは「伝わる」会話には、とても大事だと思います。

(ライター・角田奈穂子)

AERA 2022年9月19日号