もっとうまく話せたら──。話し方に自信が持てず、悩んでいる人は多い。「話すプロ」の二人が、相手に「伝わる」会話の極意を語り合った。AERA 2022年9月19日号の記事を紹介する。

*  *  *

 ラジオをこよなく愛する秀島史香さんが「ぜひお聞きしたかった」という井上貴博さんのラジオ番組の話から始まった対談。テレビを中心に出演してきた井上さんは4月、TBSラジオで初めての冠番組『井上貴博 土曜日の「あ」』をスタートさせた。

秀島史香(以下、秀島):ラジオのパーソナリティーは、生身でバーンと何もない空間に出ていって、「さぁ、自分の話をしてください」というジャンルだと思うんですけど、井上さんはいかがでしたか?

井上貴博(以下、井上):恐怖心しかなかったです。テレビの情報番組では、自分の意見を述べるときも、30秒以内で情報の体裁をどう整えるかが大事なんです。でもラジオは自分をさらけ出してしゃべらなければなりません。テレビが100m走なら、ラジオはフルマラソンというくらい違います。

秀島:井上さんの人柄がむき身にされていく感じで、聴いていてドキドキしています。

井上:ラジオは話し方の塩梅が難しいです。

秀島:私も心配性なので、何を話すかを準備して番組に臨むんですけど、結局、その日の心の状態がすごく出てしまいますね。でも、その揺れに素直になり、「これでやっていける」という心の強さを感じられるかどうかが大事だと思いませんか?

■心を安定させるには

井上:話すときのメンタルは大事ですね。秀島さんはどう安定させていらっしゃるんでしょう。

秀島:失敗はいまだにたくさんあります。でも前進あるのみ。自分がターッと渡ろうとしている吊り橋が後ろでどんどん落ちていっているイメージです。振り返ると落ちてしまうので、前だけを見て、「今、この瞬間から聴き始めたリスナーさんもいるはず」と自分を励ましています。

井上:なるほど。私は、その落ちゆく吊り橋から逃れようとする自分を俯瞰で見ているイメージかもしれません。「誰かに試されているな」と、少し引いて自分を眺めているんです。

秀島:確かにロールプレイングゲームの主人公のように、自分を俯瞰して見ることも大事ですね。自分のなかで「こっちにも非常口がある」「あっちにも非常口がある」と、考え方のバイパスをいろいろ用意しておくと、心の安定につながると思います。正解は一つじゃないんですよね。

次のページ