結婚しても本音が言えず、追いつめられていく

 神奈川県の看護師の女性(33)は、コロナ禍で夫(32)が在宅勤務になった時、幼稚園のママ友たちとの何げない会話から、自尊心がぐらついたという。

 女性の自宅は2DKで、夫は寝室で折り畳み式テーブルを広げて仕事をしている。だが、ママ友たちの家には、リビングと寝室の他にもうひと部屋あり、そこがワーキングスペースになっているというのだ。子ども同士が仲がよく、誘い合って公園に出かけたり、一緒に晩ご飯を食べたりしていたが、

「もともと気を使わなければならない相手だったけど、さらに本音が言えなくなってしまった。私の夫は100円単位まで家計に口を出し、私が働くことへの理解もない。結婚しても、子どもがいても孤独です。誰も自分のことをわかってくれないとすら思って追いつめられた」

 誰もが向き合う「孤独」。ほどよい距離感はどこなのだろう。

「ひとりは寂しいけれど、ずっと誰かと関わるのは疲れる。そんな人に選ばれている」

 と話すのは、「グローバルエージェンツ」(東京都渋谷区)の市川裕貴さん。同社は、独立した居室に加えて、入居者同士の交流用の豪華なラウンジがある「ソーシャルアパートメント」を運営している。06年に最初のアパートをオープンさせて以降、成長を続け、現在は首都圏に51棟。約3千人の入居者の平均年齢は30.6歳だ。

 そんな中、あえて孤独を選択する人もいる。

「『孤独マインド』は、立派な武器になる」

 と話すのは、コスメティック田中さん(25)。20年4月から「孤独マインド研究系YouTuber」として活動している。いまチャンネル登録者数は37.6万人。その多くが、現在進行形で悩みを抱えている高校生や、苦しい時期を乗り越えた若者たちだ。

「孤独は、周囲に振り回されずに人生を歩む力になると伝えている。だから、僕はいま友達を作る気がない」

 ときっぱり。ブレない姿勢で「ぼっち大学生が就活で失敗しない方法」「ディズニーランドにひとりで行ってみた」などの動画を作成している。

 そんな田中さんも将来を考えると、ふと心配になることがあるという。

「50歳でひとりは寂しそう。60歳でひとりは、かわいそうでコンテンツとしてかっこよさがなくなる。僕も世間の目を気にしているのかな。家族を持ったほうがさびしくはないかなとは思う」

(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年7月18-25日合併号

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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