東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 電力不足が深刻だ。政府は6月26日に東京電力管内に電力需給逼迫(ひっぱく)注意報を発令、翌日の節電を呼びかけた。折悪く首都圏では猛暑日が続き、注意報は30日夕方まで続いた。電力不足は冬にはさらに深刻になり、政府は企業向けに罰則付き節電要請の導入まで検討しているという。

 西日本では水不足も始まっている。記録的に早い梅雨明けで十分な降水がない。一部では取水制限も始まった。農作物への影響も懸念されている。

 そこにさらに通信障害まで重なった。7月2日未明に始まったKDDIの通信障害は3900万回線以上に影響し、スマホが使えず公衆電話を探し求める人々が現れた。障害は2日半続き、影響はATMや気象観測網など広範囲に及んだ。サーバー交換作業で起きた障害を起点として、ネットワーク全体に輻輳(ふくそう)が拡大した結果らしい。致命的な二次被害に繋(つな)がらなかったのは不幸中の幸いだ。

 電気も不足、水も不足、おまけにスマホも繋がらない。円安で物価は上がるし、コロナの余波で木材や半導体も不足している。ウクライナ戦争も先行きが見えない。それぞれ異なる事象だが、全体的に調子がよくないと感じるのは筆者だけではあるまい。今まで当たり前だった生活のインフラが、あちこちで静かに崩れ落ちつつあるような不穏さがある。

 本来はこのようなときこそ政治の出番だ。折しも参院選が行われている。物価高、少子高齢化、安全保障、改憲、原発再稼働等、国民的な論点がいくつもある。けれどもまともな論争は聞こえてこない。岸田政権にほとんど成果はない。にもかかわらず与党圧勝は確実視されていて、あとはネット起点の過激な新勢力や若者狙いの奇抜な候補者が話題になるくらいだ。全体が茶番に見える。

 むろん選挙には行く。選挙区でも比例区でも知人が出馬しているので彼らの名前を書く。けれどもそんな人間関係がなかったら、今回ほど投票先に困る選挙はなかった。日本の2021年の1人あたりGDPは28位。20年前は2位だった。このまま落ち続けていいのか。与党も野党ももう少し日本の未来に真剣になってほしいと思う。

◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

AERA 2022年7月18-25日合併号

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東浩紀

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東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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