AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
【写真】横道誠さんの著書『イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記』はこちら
『イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記』は、横道誠さんの著書。「自閉スペクトラム症があると、青にこだわる人が多い」──40歳で自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症を診断された筆者が世界46カ国を旅した回想録的紀行。「コミュ障たちの邂逅(プラハ)」「色彩ゆたかな巨大ソフトクリーム(モスクワ)」などユーモラスかつ豊かな描写力で「当事者の見る世界」を体験させてくれる。横道さんに同書にかける思いを聞いた。
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40歳でASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)と診断されたドイツ文学者の横道誠さん(43)。本著は20代後半から30代にかけて世界46カ国を旅した経験の一部を記した、前例のない「当事者紀行」だ。
「子どものころから何かに猛烈に夢中になる特性がありました。大学院で留学生に出会い、自分も世界のあちこちに行きたくなったんです」
初めてのウィーンでドイツ語がまったく聴き取れず敗北感に浸ったり、イスタンブールで鯖サンドにあたって寝込むはめになったり。いわゆる「旅先でのいい話」や人との触れ合いよりも、コミュニケーション下手でトラブルを起こしがちな自身を自虐的に描いている点がユニークだ。
「正直、発達障害者は旅に向いていないと思います(笑)。運良く生き残りましたけど、危険すぎる。ADHD特有の衝動にまかせてパリで歩き回り、疲れていきなり眠ってしまい、目を覚ましたらトランクがなかったことも。でも旅を振り返ることで改めて自分を知り、勉強にもなりました。街並みが整然としたパリに強烈に惹(ひ)かれたのは、何かを集めて並べたがる特性も関係があるのか、とか」
横道さんが見る世界の描写は独特だ。イスタンブールでは有名なブルーモスクをはじめ、青と青緑とクリーム色がとろけるように混じり合う無限の青に溺れ、陶酔した。
「自閉スペクトラム症があると青にこだわる人が多いんです。僕もそう。ADHDの特性や解離も関係して、ゆらゆらしていて『みんな水の中』という感覚です。そのなかで青を見つけると、そこが拠(よ)り所になるというか安心する。いまも中村さん(記者)が持っている青いペンや、ペットボトルの青色の文字が周囲から浮かんで見えています」