AERA2022年6月13日号より
AERA2022年6月13日号より

 企業決算は4年ぶりの最高益。「失われた30年」から抜け出せるかと思ったら、ウクライナ情勢などで先行きには暗雲が漂う。いつまで賃上げのない生活を強いられるのだろうか。 AERA 2022年6月13日号の記事から紹介する。

【図版】半導体、ゲームなど「純利益が過去最高となった企業」その他の業種はこちら

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 上場企業で2年ぶりに利益トップに返り咲いたトヨタ自動車は純利益2兆8501億円をたたき出した。財務担当の近健太副社長は「これまで続けてきた収益改善策の成果だ」と胸を張る。トヨタのお家芸である現場のカイゼン活動がコロナ禍でも力を発揮した。

 トヨタだけではない。2022年3月期決算で最高益を更新した上場企業は3割と約30年ぶりの高水準となった。上場企業全体でも4期ぶりに最高益を更新した。

 新型コロナウイルスの感染拡大でいったんはスローダウンした世界経済だったが、昨年春以降に各国でロックダウンが解除され、米国や中国の景気が急回復した。

 それにつれて自動車やIT機器が売れ始め、半導体不足に陥るほどに需要が膨らんだ。半導体製造装置をつくる東京エレクトロンや電子部品の村田製作所は利益を大幅に伸ばした。

 そこに最近の円安が功を奏し、自動車業界や半導体関連業界などの輸出産業は利益を上乗せしたのだ。また、原油高や鉱物資源などの価格の上昇で石油元売りや商社も順調に利益を伸ばした。

 リモートワークの広がりや「おうち時間」が長くなったことで、通信業界やゲーム機業界にも追い風が吹いている。

 今年3月までの企業業績を見る限り、日本経済はようやくコロナ禍から一歩抜け出すところにたどり着いていた。

■先行きに不透明感

 だが2月24日のロシアによるウクライナ侵攻で景気の先行きが一転し、不透明感は募っていく。

 世界経済の拡大による原油高や半導体不足であるならば、いずれは経済成長を伴って調整される。しかしロシアへの経済制裁や一寸先が見えない軍事行動は予期せぬインフレを招き、経済に深刻な影響を与える可能性がある。

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安井孝之

安井孝之

1957年生まれ。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京、大阪の経済部で経済記事を書き、2005年に企業経営・経済政策担当の編集委員。17年に朝日新聞社を退職、Gemba Lab株式会社を設立。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

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