■一冊の本に救われる
展覧会を企画した世田谷文学館の竹田由美さんは、「(ヨシタケ絵本は)自分の気持ちに折り合いをつけ、『こう考えればいいのか』とヒントをもらえる」と評す。竹田さん自身、学童保育でイヤな目に遭った息子が、『ころべばいいのに』をじっと読み、心を落ち着かせている姿を目の当たりにし、感銘を受けた。
「子どもが一冊の本にこんなに救われるなんて」(竹田さん)
同じく担当の宮崎京子さんは『りんごかもしれない』の印象が強烈だったという。
「普段思っていることって、本当はそうじゃないのかもしれない。多角的な視点を持つきっかけを絵本からもらえました」
出口へと至る「エピローグ」の空間には、ヨシタケ自身が来場者に思いを訴えるある仕掛けが施されている。一緒に歩きながら、ヨシタケの表情が少しだけ変わった。
「ここだけストーリー仕立てになるんです。だから、順番で見てほしい」
周りとなじめなかった少年時代、劣等感にさいなまれた学生時代。でも、彼は「体験して楽しませる」こと、そして「ひとによって受け取り方が変わるモノへの探求」に一貫して心血を注いできた。いつしか絵本界の寵児として、世界を牽引する存在になった。
「絵本も同じです。読む人によって受け取り方が変わるし、『いつ読むか』でも違う。僕の中ではつながっている。僕が皆さんに伝えたいことを、この空間に込めました」
出口には、プレゼントが待っている。それは、ふっと心の軽くなる贈り物だった。手にした瞬間、あなたの人生が少し変わる「かもしれない」。新たな道が開ける「かもしれない」。(ライター・加賀直樹)
※AERA 2022年5月30日号