作品には、自筆で「付箋説明文」が付けられたものも。「こうやって、茶々を入れているんです」とヨシタケ。極細ペンで描かれたイラストは、指で隠れるほど小さく、絵本も原画を拡大してつくるという(撮影/写真映像部・加藤夏子)
作品には、自筆で「付箋説明文」が付けられたものも。「こうやって、茶々を入れているんです」とヨシタケ。極細ペンで描かれたイラストは、指で隠れるほど小さく、絵本も原画を拡大してつくるという(撮影/写真映像部・加藤夏子)

 子どもの心をつかんで離さない希代の絵本作家ヨシタケシンスケが自身初の大模展覧会を東京・世田谷文学館で開催中だ。会場のそこかしこに体験展示があり、絵本の世界を体感できる。AERA2022年5月30日号の記事を紹介する。

【写真】ヨシタケシンスケさんと作品の一部はこちら

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 2013年、自身初となる絵本『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)の刊行以降、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の絵本作家・ヨシタケシンスケ。頭のなかで永遠に広がる妄想。思わずほくそ笑んでしまう仕草。そして「そこにたどり着くか!」と叫びたくなる結末。唯一無二の世界観に、大人も虜になっている。「MOE絵本屋さん大賞」では7回も第1位を受賞。世界各国で翻訳が相次ぎ、『つまんない つまんない』(白泉社)英語版は19年、「ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞」に輝いた。

筑波大時代の立体造形作品が会場に並ぶ。写真は「ACcess100」。かぶると暗くて何も見えないが、頭から伸びる電源コードをコンセントに差し込めば、眼前が開いて視界が開ける(撮影/写真映像部・加藤夏子)
筑波大時代の立体造形作品が会場に並ぶ。写真は「ACcess100」。かぶると暗くて何も見えないが、頭から伸びる電源コードをコンセントに差し込めば、眼前が開いて視界が開ける(撮影/写真映像部・加藤夏子)

■頭のなかをのぞく

 今回の展覧会は、そんなヨシタケの「頭のなかをのぞいてみる」がコンセプトだ。約2千枚のスケッチのほか、絵本原画、彼自身が考案した立体物など約400点を展示。さっそく場内をヨシタケ自身に案内してもらった。入り口には絵本とは趣の異なる、物々しい人形が並ぶ。

「『カブリモノシリーズ』です。頭にかぶったり身につけたりすることで、何かができたり、できなくなったりする」(ヨシタケ)

 彼が筑波大学芸術専門学群に在学中、制作に心血を注いできたシリーズだ。たとえば作品「WING」。翼の形をした2枚の板がある。翼を背負ったヨシタケはバタバタと鳥が飛ぶように歩き回った後、最後は部屋の隅にうずくまる。翼は箱になり、彼は外界と完全に遮断される。

「自分を守る翼です」(ヨシタケ)

 また、カブリモノ「AURORA」は、頭の右上からケチャップ、左上からマヨネーズを注入し、口からオーロラソースとして排出する。「少年時代から自己嫌悪や劣等感を抱き続けてきた」という、ヨシタケの知られざる一面を垣間見ることができる。

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