AERA 2022年3月28日号より
AERA 2022年3月28日号より

 新型コロナウイルスに感染すると、脳が萎縮したり、認知機能が低下したりするリスクの高まることが欧米や中国からの報告でわかった。AERA 2022年3月28日号の記事を紹介する。

【図】退院12ヶ月後に認知機能が低下していた人の割合

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 英オックスフォード大学などの研究チームが3月上旬、英科学誌「ネイチャー」に発表した論文によると、新型コロナウイルスに感染した人は感染していない人に比べて、脳の大きさの萎縮や脳神経細胞の数の減少が大きく、嗅覚に関係する部位の組織の損傷も大きかった。

 研究チームが分析に使ったのは、英国の「UKバイオバンク」と呼ばれる、英国人約50万人の様々な医療情報や遺伝情報を集めたデータバンクの情報だ。英保健省や、国立医学研究機関の「メディカル・リサーチ・カウンシル」などが2006年に創設した。

 データバンクへの協力者は定期的に血液や尿、唾液などを提供しており、1人についての経年的な変化もわかる。4万人以上の脳のMRI画像も登録されており、新型コロナウイルスが発生する前から、こちらの協力者に対しても、約3年の間隔をあけて2度目のMRIの撮影を受けてもらえるよう呼びかけが始まっていた。

脳に損傷与えた可能性

 研究チームは、すでに2度のMRI撮影をした人のうち、最初と2度目の撮影の間に新型コロナウイルスに感染したことが診療記録などから確認できた401人について、感染の前後で脳がどのように変化したのかを調べた。また、この401人と同じように約3年の間隔をあけてMRI撮影を2回受けており、新型コロナウイルスに感染していないことが確認できている人の中から、401人と性別や年齢、人種の構成が同じになるよう384人選び、脳の変化の具合を比較した。

 その結果、感染経験者の方が、2回目のMRI撮影時には、脳の容積が小さくなっている度合いが大きく、脳の「灰白質」と呼ばれる脳神経細胞の集まった部位の密度もより低くなっていて、脳神経細胞が減少している傾向が強かった。また、嗅覚に関係する神経とつながっている脳の組織の損傷度合いも大きかった。

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