石川彩子(いしかわ・あやこ)/1984年生まれ、東京都出身。37歳(撮影/写真部・松永卓也)
石川彩子(いしかわ・あやこ)/1984年生まれ、東京都出身。37歳(撮影/写真部・松永卓也)

 短期集中連載「起業は巡る」。第3シーズンに登場するのは、新たな技術で日本の改革を目指す若者たち。第4回は、仕事版の価格比較サイトをつくった「ミツモア」創業者で代表取締役CEOの石川彩子氏だ。AERA 2022年3月14日号の記事の1回目。

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 最近始めたネットショップが好調なので、少し奮発してプロの写真家に商品写真を撮ってもらいたい。春に転勤するが引っ越し代の相場が分からない。共働きでハウスクリーニングを頼みたいけど、信頼できる会社じゃないと困る。会社を辞めて初の確定申告。親切な税理士さんを探している……。

 ネットをのぞけば、関連広告は数限りなく表示される。なかには極端に安い料金で誘っておいて、実際にはとんでもない請求をしてくる会社も。最近は口コミにも「やらせ」が交じっているので鵜呑(うの)みにはできない。

 かつて消費者は家電を買うときにも同じ悩みを抱えていた。テレビやパソコンはどこが一番安いのか。そもそも32インチのテレビはいくらくらいなのか。それを解決したのが1997年に登場した比較サイト「¥CORE PRICE¥(現・価格.com)」だ。多くの消費者が店舗に足を運ぶ前にこのサイトをチェックするようになった。

■日本の凋落を実感

 価格.comの“仕事版”として人気を集めているのが「ミツモア」だ。個人向けなら写真家、ハウスクリーニング、庭の手入れ、水のトラブル。法人向けには税理士、行政書士、ホームページ制作、翻訳など。サイトで簡単な質問に答えるだけで、300超の業種で「この仕事はいくらくらいで頼めるのだろう」という疑問に答える。

 創業者の石川彩子には強烈な原体験がある。1980年代後半の中国・北京。街中のトイレが溝に板を渡しただけで、デパートのガラスケースの中にはわずかな商品しか陳列されていなかった。幼い頃、大学で比較教育学を教えていた父親が北京大学に招聘(しょうへい)されていた関係で、夏休みを当地で過ごした。2度の五輪を経てすっかり近代化した今では想像もつかない「途上国」の姿がそこにあった。

 石川たちはホテルのスイートルームで過ごしたが、宿泊費は1泊3千円程度。当時の物価は信じられないほど安かった。バブル景気の真っただ中の日本はピカピカに輝き、アジアの人々の憧れの的だった。誰もが日本のテレビドラマに釘付けになり、日本企業で職を得るために争うように日本語を勉強した。

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