はやし・きょうこ/1966年生まれ。高校2年生で不登校になり、以来30代まで断続的にひきこもって過ごす。現在、一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事。他、新ひきこもりについて考える会世話人、NPO法人Node理事、一般社団法人Polyphony理事などを歴任(photo 小暮誠)
はやし・きょうこ/1966年生まれ。高校2年生で不登校になり、以来30代まで断続的にひきこもって過ごす。現在、一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事。他、新ひきこもりについて考える会世話人、NPO法人Node理事、一般社団法人Polyphony理事などを歴任(photo 小暮誠)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【画像】いま読んでおくべき一冊『ひきこもりの真実─就労より自立より大切なこと』はこちら

『ひきこもりの真実─就労より自立より大切なこと』は、一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事を務める林恭子さんの著書。ひきこもりには女性も性的少数者もいるし、困窮する人も、本当は働きたい人もいる。そして、それぞれに生きづらさを抱えている──。ひきこもり当事者でもあった著者が、「ひきこもり1686人調査」と自身の体験をもとに、ひきこもりの真実を伝える。画一的な支援の課題、当事者に寄り添う支援とは何か、考えさせられる。林さんに、同書にかける思いを聞いた。

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 16歳で不登校になり36歳までの20年間、断続的にひきこもった。そんな林恭子さん(55)による本書は、まさにひきこもりの「真実」を伝える一書だ。

「大きく誤解されているひきこもり当事者の本来の姿を、支援者にもご家族にも知ってもらい、支援の在り方について考えてほしいと思って」

 ひきこもりと言えば、甘えや怠けと捉え、ゴールは「自立と就労」と考えている支援者や家族が少なくない。しかし、当事者は現状を何とかしたい、でもどうしていいかわからず、地下の土の中で「生き埋め」の状態でもがき苦しんでいる。なのに、それが支援者たちに伝わらず、多くの当事者が傷ついてきたと語る。

 本書では、自身の体験も赤裸々につづった。自分の価値観を押し付けてくる母親との関係や管理教育に馴染めず、不登校やひきこもりになったこと。高校も大学も中退したこと。自己否定、不安、焦り、生き地獄だった日々……。

「もしかしたら一カ所でも、同じような経験をしているかもしれないので、『一人じゃなかった』と思ってくれたら」

 林さんがひきこもりを脱することができたのは、これというきっかけがあったわけではない。少しずつ少しずつ「光」の方に向かい匍匐(ほふく)前進していったイメージ。光は自身の中では「地上」だったという。それと信頼できる精神科医に出会えたこと。33歳の時に初めてひきこもりの集まりに行き同じ当事者と出会え、「一人じゃなかったんだ」と思えたことが大きかったと話す。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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