強制収容所で食料をもらうため、列に並ぶ古本さんの母と姉ら。米国に戻り、姉らは大学で学び、医師や教師になった(写真:古本さん提供)
強制収容所で食料をもらうため、列に並ぶ古本さんの母と姉ら。米国に戻り、姉らは大学で学び、医師や教師になった(写真:古本さん提供)

「近所の子に見せると約束したのに! 母は何も言わなかった。一日中大泣きしましたよ」

 母は、家族の胃袋を満たすため、闇市でおもちゃを売ってしまったのだった。

書簡に「不正」と明記

 93年、クリントン元大統領は、強制収容された日系人に対し、謝罪の書簡を送った。

「日系米国人とその家族の基本的な自由を不当に否定したことに対し、私は心からのお詫びを申し上げる」

 大統領署名の書簡を古本さんは額に入れて保管している。謝罪の言葉だけでなく、日系人が受けた戦時中のヘイトクライムを「不正」とはっきりと書いてあるためだ。

 古本さんは、大統領令9066があったがため、日米両国で差別を受け、広島原爆の現実を目の当たりにし、ベトナム戦争の犠牲となった。しかし、学生向けのオンライン授業では、星条旗を背景に、ベトナム帰還兵のキャップをかぶって臨む。いつも若い人への証言をこう締めくくる。

「私は、アメリカンドリームを夢みて、それを生きた。アメリカを愛している。だからこそ、その国で日系人強制収容が起きたという事実を多くの人に知ってもらいたいんです」

(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))

AERA 2022年2月28日号