フリーの演技を終えてあいさつする羽生
フリーの演技を終えてあいさつする羽生

■全日本選手権から進化

 ところが、北京の初日練習で見せた4回転半は「回転させる」ジャンプだった。スピードをつけて流れるような助走で入り、カーブを使って跳びあがる。「その場跳び」から、左前方へ放物線を描くような跳び方へと変化していた。

 回転は確実に増えていた。全日本選手権は4回転とちょっとだったが、「4回転と4分の1」に。組んでいた左足を着氷寸前にほどき、右足だけで着氷するものも2本あった。跳び方について聞かれると、

「違うアプローチにしています。入るカーブとか」

 短い言葉でそう説明。手応えを感じた様子で笑顔をみせた。

「こっちに来て、浮きもいいですし、回転のかけ方もやりやすいと思い、今日やってみました。まずは回転し切りたいです。1回目の練習でまだ思い切ってない感じはしますが、少しずつ成長できればいいと思います」

 そしてSPに向けて誓った。

「良い感覚で入れています。4回転アクセルのことをすごく考えてしまいますが、ショートにも愛情を持って、できることを積み重ねたいと思います」

 過去2大会の金メダルをともにつかんだブライアン・オーサーコーチはリンクサイドに立たず、今回は1人での試合を選んだ。ここ2年はコロナ禍のなか、出身地の仙台市で過ごし、リモートでのレッスンを受けながらも1人で練習してきた。特に今、4回転半は自分自身の中で細かいアプローチを重ねてきたからだ。

「ブライアンにはちゃんとみてもらっています。今回は、彼自身が僕のルーティンを大切にしてくれた形です」

■SPでアクシデント

 オーサーコーチは韓国と米国の選手に同行し、常に近くにはいる。リンクサイドでのサポートはなかったが、ウォーミングアップを始める前にグータッチをするなど、気持ちの支えとなっていた。

 8日朝の公式練習も、6分間練習も、羽生は淡々とジャンプを跳んだ。長年跳んできた4回転サルコーとトーループには、寸分の狂いもなかった。

 迎えたSP本番。曲は、ピアニストの清塚信也が羽生のために編曲、演奏した「序奏とロンド・カプリチオーソ」だ。ピアニッシモの序奏の音色に溶け込み、柔らかく氷をなでるかのように滑り出す。冒頭の4回転サルコーを踏み切ると、フワリとスローモーションのように1回転した。氷に開いていた穴にブレード(刃)が入り、踏み切りの反動が狂ってしまったのだ。

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