移動販売では商品は1個から買え、送料もかからず手軽だ。リアルからネットへの流れを作ることで、食べチョクが大事にしている、生産者のこだわりの食材や生産者とつながる楽しみを広げたい考えだ。

【人気店のパンを取り置きできる】sacri/サクリのアプリで、欲しいパンを事前に取り置き予約しておけば、当日は営業時間内にピックアップに行くだけで便利だ(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
【人気店のパンを取り置きできる】sacri/サクリのアプリで、欲しいパンを事前に取り置き予約しておけば、当日は営業時間内にピックアップに行くだけで便利だ(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)

 近隣の三つの人気店のパンをのせた移動販売車「Marche Bakery(マルシェ ベーカリー)」が、12月頭、東京・青戸のマンションでプレオープンした。

「小さい子どもがいると、パンだけを買いに出かけることはなかなかできないのでうれしい」

 と赤ちゃんを抱っこした女性。11時の開店とともに子ども連れの客が多く訪れ、チョコチップメロンパンやクロワッサンは1時間もしないうちに売り切れた。

 ただしこのベーカリー、一番のユニークさは「欲しかったパンを買えずにガッカリ」といった思いをしないですむ点にある。パン屋をコーディネートしている「sacri(サクリ)」のアプリで、あらかじめ販売されるパンを知り、事前決済で取り置き予約ができるのだ。

 サクリがリリースされたのは20年10月。1年強で3万8千人のユーザーを獲得し、全国約70のパン屋が活用している。代表の大谷パブロ具史さん(35)がアプリを開発したのは「ベーカリー業界の課題解決が目的」と話す。大谷さんは、前職の広告会社勤務時に個人店を応援する新規事業を立ち上げ、業界の課題を知った。大谷さんは言う。

「客は行列に並んだり、仕事帰りの夕方にパン屋に行っても欲しいパンが手に入らないことがままある。機会損失が多いのです。一方、パン屋は客に一番来てほしい、パンのそろっているタイミングに来てもらえない悩みを抱えていた。そのミスマッチを解消するため、欲しいパンを事前決済で取り置きできるアプリを開発しました。焼き上がり通知の機能もあります」

■パン屋の商圏拡大

 パン屋は商圏が2キロ以内と狭く、ギリギリの人数で繰り回しているため業務の拡大も難しい。そこでサクリは、取り置きのパンをパン屋以外の場所でもピックアップできるサテライト展開を始めた。事前決済のためパン屋はリスクを負わずに生産量を増やせ、商圏を拡大できる。移動販売はその一環だ。

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