コロナ禍で気軽に外出しにくくなり、住宅地に移動販売車がやってくる「現代版行商」の流れが生まれた。注目されるのは、ネット企業がリアルに“逆流”する動きだ。AERA 2022年1月17日号から。

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【こだわりの産直野菜と果物】食べチョク/生産者のちらしやレシピのQRコードを読み込むと、専用ページにアクセスできる。出店場所や日時は食べチョクのサイトや公式LINE、共同運営するMellowのアプリ「SHOP STOP」(3社とも)で確認可(撮影/倉田貴志)
【こだわりの産直野菜と果物】食べチョク/生産者のちらしやレシピのQRコードを読み込むと、専用ページにアクセスできる。出店場所や日時は食べチョクのサイトや公式LINE、共同運営するMellowのアプリ「SHOP STOP」(3社とも)で確認可(撮影/倉田貴志)

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 2021年11月下旬、東京・晴海のタワーマンションが夕闇に包まれたころ、その足元に温かな光を放つ一角があった。野菜と果物を積んだ移動販売車だ。玉ねぎやにんじんなどの定番野菜に加え、ヤーコン、紫じゃがいもなど珍しい野菜が目を引く。

「生で食べられる?」

「どう料理するの?」

 客と店員の会話がはずむ。さらに店内でもう一つ目を引くのは、生産者の顔写真やこだわりを伝えるメッセージだ。実はこの移動販売の八百屋、産直のネット通販「食べチョク」が10月から始めた事業なのだ。

 コロナ禍で外出がままならないなか、タワーマンションなどの住宅地に移動販売車がやってくる「現代版行商」の流れが生まれた。注目されるのは、ネット企業が移動販売を通じてリアルに“逆流”する動きだ。

■気軽に試し買いできる

 食べチョクを運営するビビッドガーデン・マーケティング統括の松浦悠介さん(26)は言う。

「20年を境に事業が急拡大しました。コロナ禍の消費者の巣ごもり需要と、飲食店などの出荷先をなくした生産者の参入を受けてです。2年前との比較で生産者数は10倍、流通額も128倍に増えました」

 ユーザー数も50万人に増えた。しかし急増した供給可能量を十分流通させるには、ユーザーとリピート購入をさらに増やしたい。だが、ネットでは解消できない課題が立ちはだかった。

「『食べチョクの名前は知っているけれど買ったことがない』『興味のある品物はあるけれど送料がかかったり、個数が多くて購入に踏み切れない』などの声が聞かれました。ネットで購入する前に、リアルの場で気軽に試し買いできるステップが必要だと考えました」(松浦さん)

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