【左】(渋谷慶一郎)しぶや・けいいちろう/1973年、東京都生まれ。音楽家。2021年、映画「ミッドナイトスワン」で毎日映画コンクール音楽賞、日本映画批評家大賞・映画音楽賞受賞(写真=本人提供)【右】今井眞一郎(いまい・しんいちろう)/1964年、東京都生まれ。ワシントン大学(米ミズーリ州セントルイス)医学部教授、神戸医療産業都市推進機構特任部長。趣味はクラシック音楽(撮影/写真部・東川哲也)
【左】(渋谷慶一郎)しぶや・けいいちろう/1973年、東京都生まれ。音楽家。2021年、映画「ミッドナイトスワン」で毎日映画コンクール音楽賞、日本映画批評家大賞・映画音楽賞受賞(写真=本人提供)【右】今井眞一郎(いまい・しんいちろう)/1964年、東京都生まれ。ワシントン大学(米ミズーリ州セントルイス)医学部教授、神戸医療産業都市推進機構特任部長。趣味はクラシック音楽(撮影/写真部・東川哲也)

減るなら減らさない

今井:はい、それが今のコンセンサスになってきました。私は、NADが減ることで老化が起きるなら、「減らないように保ってやればいいんじゃないか」と思ったんです。ただ、NADを飲んで体内に取り込んでも、腸内細菌に分解されてしまう。そこでNADの一歩手前の物質で、体に取り込まれるとNADになるNMNを投与したらどうかと考え、これが大きな成果をあげました。

 ――今井さんの研究で、糖尿病のマウスにNMNを与えると、糖尿病が劇的に改善することが判明。また1年間NMNを投与したマウスは、人間でいう60歳ごろになっても老化現象を抑えられることがわかったという。今年4月には、閉経後でやや肥満の糖尿病予備軍の女性にNMNを経口摂取させたところ、インスリンの感受性が約25%上がり、糖尿病が改善する可能性があることが研究発表された。ヒトへの抗老化にも大きな期待が寄せられる。

渋谷:先生の書籍『開かれたパンドラの箱』を読んで理解したことなんですが、抗老化のメカニズムには、脳の視床下部が大きく関わっているようですね。視床下部は睡眠や覚醒を司(つかさど)る部分でもあるので、NMNの投与は、睡眠の深さと同時に集中力にも関係しているんじゃないかという実感があるのですが。

今井:そこは今、まさに現在進行中の研究の一つなんです。私たちはNMNを投与したマウスの睡眠についても詳しく調べているんですが、明らかに作用があることが分かってきました。渋谷さんはNMNのサプリを飲んでいると伺いました。それを飲むと、たとえようもなく夜に眠くなってきませんか?

渋谷:なってきます。抗しがたい眠気なんですよね。

今井:NMNは「サーカディアンリズム」といって、24時間周期で、きちんと起きる、寝る、といった体の活動と非活動の状態をきっちり整える作用があるんです。

渋谷:確かに、生活スタイルが変わりました。それまでは朝5時まで作曲をして、午前9時、10時に起きるという生活だったんですが、今は朝7時にヨガのレッスンを受けるようになっていて(笑)。だから夜の12時には眠くなって寝ちゃうという。

今井:そう、夜起きていたいと思っても、眠くて眠くて仕方がない。それはサーカディアンリズムが整えられているからなんです。

>>【後編:若さを補って創造性を高める? アンチエイジングで注目の「NMN」、飲用で体の変化は】へ続く

(構成/編集部・大川恵実)

AERA 2021年12月6日号より抜粋