(photo 植田真紗美)
(photo 植田真紗美)

鬼滅の刃』には、職場のマネジメントでも学ぶべきところがある。ポイントは、心の力「非認知能力」の一つで、上司に問われる資質でもある「他者肯定力」だ。登場人物の部下の接し方から“理想の上司像”が見えてきた。AERA 2021年12月6日号から。

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 育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、「利他のために戦うのが鬼殺隊、利己のために人を殺すのが鬼」と分析する。おおたさんは、非認知能力について「利他性」と「当事者性」の二つの要素に注目する。

「つまり、他者を思いやり自分ごととして考えられる力ともいえます。炭治郎をはじめ、鬼殺隊はこの能力が高い。鬼は損得勘定で動き、数字で序列もつけられています。が、柱には序列がなく、隊員は信念に忠実に仲間を守るために戦う。消えゆく鬼の手を握り来世での幸せを願ったり、立場が下の者にも感謝や謝罪の言葉を素直に伝えるシーンによく表れています」

 実際、AERAが行ったアンケートでも「リーダーは利他的であるべきと改めて心に刻んだ」(45歳・会社員・女性)など、登場キャラクターに“理想の上司像”を見いだす声も目立った。

 職場のマネジメントにおいても非認知能力は重要だ。上司に問われる重要な資質の一つが「他者肯定力」だ。秋葉原内科saveクリニック院長の鈴木裕介医師は「“他者肯定”と“自己肯定”は表裏一体」と話す。 

「自己肯定とは、自分の存在を他者からの評価と切り離して無条件で肯定できる力のことです。他者肯定とは、そうした見方が他人に対してもできることではないでしょうか。社会的な立場や評価にかかわらず、相手の考えや気持ちを尊重できる力です」 

 他者を心から肯定するには、「自分と他人の違い」を受け入れられる、ある程度の心の強さがいる。自分を肯定できないと、他者に対しても攻撃的な言動をしてしまいがちだ。 

率直な意見を言える 

 他者肯定力の差は、産屋敷耀哉と鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)の「部下」への話し方や態度にも表れている。 

 例えば、産屋敷は柱合会議で「炭治郎と禰豆子のことを認めてほしい」と柱に言うが、即座に「納得できない」と断られる。すると、「確かにそうだね」と一旦受け止め、「なぜ認めてほしいのか」を丁寧に説明し、再度「わかってくれるかな?」と問いかけている。 

 一方、鬼舞辻は、いきなり下弦の鬼を呼び出し、「何故にそれ程まで弱いのか」と一方的に問い詰め、口をはさむことも謝ることも説明することも許さなかった。 

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